第45話 ドラゴン愛が止まらない!
ある夜、酒場の扉が勢いよく開いた。
「おおおおお!! ついに来たぞ!!!」
乱入してきたのは、全身にドラゴンの紋様が刻まれたローブをまとい、肩には羽根ペンを指したメモ帳を抱えた男。腰には分厚い研究書がぶら下がり、その目は異常なほど輝いている。
え、なに? うち、そんなやばい研究者予約してた?
「いたぁぁぁぁぁ!!!」
興奮した声とともに、男がまっすぐに駆け寄って指差したのは、カウンターで酒を飲んでいたドラコだった。
「お、おい…なんだよ?」
「君だっ!!! ついに本物の“泡を操るドラゴン”に出会えたぁぁぁぁ!!!」
店内がざわめく。私はグラスを拭きながら、うんざりとしたため息をついた。
「…また面倒くさいのが来たわね。」
「はっ、これはいけない!」
男はごほんと咳払いをして、胸を張った。
「私はゼファル・ノートン!世界で最もドラゴンを愛する男!ドラゴン研究家だ!!」
「知らん!」
私とドラコのツッコミが見事にハモる。
「君のことは前々から噂で聞いていた…火を吹かず、泡を操る希少種のドラゴンがいると!まさか本当に存在するとは!」
男の目は完全に狂気じみた興奮で輝いている。
「うむ、すばらしい……っ!さあ、観察させてもらうぞ!!」
「いや、勝手に研究対象にすんな!!」
ドラコが尻尾を振りながらじりじり後退するが、ゼファルはメモ帳を構え、目をギラつかせながら迫る。
「泡の成分は何だ!?どのくらいの頻度で発生させる!?泡の持続時間は!?魔法的要素か!?それとも生理現象か!?いや、ひょっとしてどこかの酒の神の祝福を受けた結果なのか!?くぅぅぅぅ、ロマンが止まらない!!!」
「知らねぇよ! 俺だって適当にやってんだよ!!」
「何だと!? こんなにも希少な能力を“適当”に!? 許されざる怠慢!!」
「怠慢とか言うな!!」
店内はすでに爆笑の渦。
ゼファルはカウンターをバン!と叩くと、にやりと笑った。
「よし、ならば…証明してもらおう!!泡の真の力を!!」
「まためんどくさい流れになってきたな…」
ドラコが渋々酒を飲み干すと、ゼファルがカバンから取り出したのは――小瓶に詰まった不穏な液体。
「何それ?」
「スーパードラゴンエール!!」
ゼファルが自信満々に掲げたそれは、古代の酒造技術を駆使して作られた超高濃度発酵酒。飲めば喉から胸にかけて燃えるような熱さが走る、いわゆる「爆発系アルコール」。
「この超高濃度エールを飲めば、泡の力が覚醒する可能性がある!!!」
「いやいや、そんな都合よくパワーアップするわけ――」
言い終わる前に、ゼファルはドラコの前に酒を置く。
「さあ、飲め!! 研究のために!!!」
「なんで俺の意思無視なんだよ!!」
「頼む…!一生のお願いだ!!!」
ゼファルは土下座寸前の勢いで懇願し、店内の客たちも「飲めー!」と煽り始めた。
「おいおい、なんでこうなるんだよ……」
ドラコはしぶしぶエールを手に取ると、一気に飲み干す。
「ぶはぁっ!!くそっ、喉が燃える…!!」
途端に、口の中からもくもくと白い泡が湧き上がり――
「んんっ!? なんかやべぇ!!」
「おおおお!!!」
ゼファルは興奮のあまり震えた。
「これはまさに……“ドラゴン・バブル・オーバーフロー”!!!」
ボフッ!!
突如、ドラコの口から膨大な泡が噴き出した。店内は一瞬で白いもこもこの泡に包まれ、ゼファルは「記録!記録!」と叫びながらメモを取りまくる。
「ちょっと待てぇぇぇぇ!!!泡まみれになってるじゃないの!!!」
「ぐはっ、すげぇ量出てくる!!止まんねぇ!!!」
カウンターの奥でジーナが呆れた声を上げた。
「リリィ、これ大丈夫なの?」
「大丈夫なわけないでしょ!!!!」
慌てて泡を拭いながら、私はドラコに詰め寄った。
「今日はおつまみなしね!!!」
「ええええ!?なんで俺だけ!!」
「余計なことして店中泡まみれにしたからよ!!!」
ゼファルは大興奮しながら泡に埋もれ、「すばらしい!!こんなドラゴンは世界に一匹しかいない!!」と感動の涙を流していた。
「お前だけは満足してんじゃねぇ!!!」
店の掃除が終わる頃には、ゼファルはまだ泡にまみれながら「次は炎を帯びた泡の研究を…!!」と呟いていた。
「帰れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
こうして、酔いどれ小屋は今日も騒がしく、そして泡まみれの夜を迎えたのだった――。
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