第9話 マダムの力、底知れず!
昼下がり、酔いどれ亭の厨房で新作おつまみの試作に没頭していた私は、目の前に輝くシャインリーフをじっと見つめていた。森で苦労して仕入れたこの「シャインリーフ」、光るというだけで目を引くけど、問題はその味。焼けば香ばしくなるけど、どうしても苦味が強すぎるのよね。
「これが解決すれば、大ヒット間違いなし!…のはず!」
自分を鼓舞するように呟きながら、ボウルの中でほのかに光を放つ葉を手に取り、どう調理すべきか頭をひねる。この独特の苦味をどうやって中和するかが鍵なのよね。
そんな時、扉のベルがチリンと鳴った。
「リリィちゃん、今日は何をしているのかしら?」
現れたのは近所のマダム・バーベナ。紫色のスカーフをふわりと巻いた彼女は、お節介と知識量なら右に出る者はいないと言われる存在だ。手には謎の植物が詰まった籠を抱えている。いやな予感しかしない。
「あら、バーベナさん。シャインリーフを使ったおつまみを――」
説明しようとする間もなく、彼女の目が鋭く光った。
「それじゃダメね。」
ちょっと待って、ダメって何よ。まだ味見もしてないのに! そう思う間もなく、バーベナさんはズカズカと厨房に踏み込んでくる。ちょっと! ここは私のお店なんですけど?
「シャインリーフは、火を通しすぎると苦味が増すのよ。だからね、これを使いなさい!」
籠の中から彼女が取り出したのは、ルミナベリー。透明感のある青い実は、まるで宝石のように輝いている。
「これって、甘いだけじゃないんですか?」
私は半信半疑で尋ねる。
「ただ甘いだけだなんて思ったら大間違いよ。この実を潰してソースにすると、苦味を消しつつ甘酸っぱさが引き立つの。それに、ほら、見た目も綺麗でしょ?」
バーベナさんの迫力に押され、私はしぶしぶ彼女の指示通りに試してみることにした。
シャインリーフを軽く炙り、香ばしさを引き出した後、ルミナベリーを潰して作った鮮やかな青いソースをたっぷり絡める。そして最後に、魔法の炎でほんの一瞬だけ表面を炙って香りを閉じ込めると――。
「…おお!」
お皿の上に出来上がったのは、葉の光と青いソースが織りなす鮮やかなコントラスト。これ、見た目だけでも売れそうだわ。恐る恐る一口かじると、苦味は跡形もなく消え、甘酸っぱいソースが葉の香ばしさを引き立てている。思わず、感嘆の声が漏れた。
「これ、美味しい…!」
驚きの声を上げる私に、バーベナさんは得意げに笑った。
「でしょ? 長く生きてるとね、こういう知恵が勝手に身につくのよ。」
なんて言いながら、彼女は次なる一手を考えている様子。
その時、カウンターに座っていたフォルクが厨房を覗き込んできた。
「リリィ、冗談抜きでバーベナさんからもっと教わったほうがいいんじゃないか?」
彼のニヤついた顔にカチンときた私は、むっとしながら言い返す。
「別に、私だってこれくらい――」
「ほらほら、謙遜しないの! 次はこれを使ってみましょう!」
再び籠を漁り始めるバーベナさん。嫌な予感しかしない。完全に私の厨房が彼女の実験場になっている。
こうして私の新作おつまみ「シャインリーフとルミナベリーの香ばし炙りソース添え」は完成した。確かに美味しいし、見た目も抜群。きっとお客さんたちも喜んでくれるはずだけど、次回はもう少し私のペースでやらせてほしいわ!
─
「想定以上に多くの人間が出入りしているな…。タイミングを見誤れば、こちらが逆に返り討ちに遭う可能性もあるか。」
リリィの知らぬところで、影は静かに、しかし着実に準備を整えていた。
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