第40話 スパイスの嵐!ザフィラ降臨!
バンッッッ!!!!!!
扉が吹き飛ぶ勢いで開いた。店じゅうの客が一斉に振り返る。
「リリィ! 今日こそ、すげぇ食材を持ってきたぞ!!」
野菜店ガルドの豪快な声が響き渡る。
「うるさい! もうちょい静かに…って、誰?」
ガルドの後ろから、見たことのない女性が颯爽と現れた。褐色の肌に、まるで宝石のような碧い瞳。黒髪を後ろで高く結び、刺繍の入った異国風の衣装をまとっている。堂々たる立ち姿。――いや、それどころじゃない。全身から、ものすごい香りがする。
「ふふふ…ここが、噂の酔いどれ亭ね?」
彼女はまるで王女のように優雅に微笑んだ。
「紹介しよう!こいつはザフィラ・バハール!異国のスパイス商人にして、味覚を司る女神!!」
「…なんか、とんでもない方を連れてきたわね」
「フフッ、気に入ったわ! では、さっそく――」
バサァッ!!
ザフィラが勢いよくマントを翻す。すると、その下から――何十種類ものスパイス瓶がびっしりと並んだベルトが姿を現した。
「さあ、もっとスパイスを使いこなすのよ!!!」
彼女は一本の瓶を取り出し、店の中央で高らかに掲げる。
「まずはバジルよ!!!」
まるで聖なる遺物のようにバジルの瓶を掲げるザフィラ。店じゅうの客がポカンと口を開けた。
「…いや、普通のハーブじゃない?」
「なにを言うの!? このバジルはただのバジルではない! 異国の山岳地帯で、神聖な風を浴びながら育ったバジル! その香りは料理に生命を吹き込み、ありふれた味を極上のものへと昇華させる!!その名もセイントバジル!」
「説明が壮大すぎるわ!!!」
思わずツッコむ。が、ザフィラはお構いなし。
「さあ、今すぐ! あなたの料理にこのバジルを加えるのよ!」
「いやいや、すでに完成したおつまみを勝手に――」
「スパイスとは生命!生命は変化し続けるもの!完成など存在しない!」
「勝手に哲学語らないで!!!」
しかし、彼女はすでに動いていた。手に取ったのは……
「おい、ちょっと待って!? それドラゴンの炎焼きじゃない!?」
ガルドの持ってきた野菜のおかげで完成した名物おつまみ、竜神葱のロースト。絶妙な香ばしさと甘みが際立つ完璧な一品。それに、勝手にバジルを刻んでぶっかけている!!
「何をするの!? ちょっと!? やめ――」
「バジル降臨!!!!!」
バッサァァァアアア!!!!
まるで粉雪のように、刻まれたバジルが舞い散った。
……やりやがった。
「ふふ…仕上げに、こちらのスパイスを…レッドペッパー!!!」
「うわぁぁぁぁああ!? めっちゃ辛そうなの入れた!?!?」
「これこそが、真の進化!!」
「やめて!! 客の料理で実験しないで!!!」
しかし、時すでに遅し。
彼女は、改造された竜神葱のローストを手に取り、一口……。
「――はぁぁぁぁぁぁ……!!!」
恍惚の表情を浮かべるザフィラ。
「こ、これは…!竜神葱の甘みとバジルの爽やかさ、そこにレッドペッパーの力強い刺激……!!これぞ、味の調和!料理の完成系!!!」
叫ぶと同時に、店じゅうに広がる強烈な香り。
試しに私も食べてみる。
「…!?」
バ、バジルの香りが、竜神葱の甘さをさらに引き立てて……!
そこに、ほんのりピリッとした辛みが加わることで、全体がグッと引き締まる。
――うっま。
いや、めちゃくちゃ美味しい。悔しいけど、美味しい。
「くぅぅぅぅ!! 肉なしでも美味しいのが悔しいぃぃぃ!!」
ガルドも同じ感想を叫んでいた。
こうなったら、酒も合わせるしかない。
この清涼感と辛みを活かせるお酒は……
「…決めた!」
私はカウンターの奥に走り、特別な酒樽を取り出した。
「スパイスハイボール、完成!!」
キンキンに冷えた炭酸水に、熟成されたウィスキーを注ぐ。そこへ、バジルとレモングラスをひとかけら。最後に、ザフィラの持ってきたレッドペッパーをほんの少しだけ加える。
「さぁ、飲んでみて!」
「ぐいっ…ごくっ…」
ゴクリと喉を鳴らしたガルドとザフィラの目が、一気に見開かれた。
「「――かぁぁぁぁぁ!!!!」」
バジルの爽やかさ、レモングラスの清涼感、そこにスパイスのピリッとした刺激が加わり、後味はキリッと引き締まる。
「これぞ、スパイスの極致!!!」
「…完敗だわ」
気づけば、店の客も拍手を送っていた。
「これ、最高だな!!!」
「香辛料一つでこんなに変わるのか!」
そんな歓声が飛び交う中、ザフィラは不敵に笑う。
「フフフ…気に入ったわ、リリィ! あなた、なかなかやるじゃない」
こうして、酔いどれ亭の新メニュー、「竜神葱のバジル焼き&スパイスハイボール」が誕生したのだった。
…そして、数日後。
「リリィ! 今日こそあなたに、未知なるスパイスを――」
「もうやめて!!!」
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