第35話 情報流出?ならば全公開!
『酔いどれ小屋の従業員情報管理が杜撰である』
昼過ぎ、店の前で足を止めた私は、掲示板に貼られた張り紙を見つめた。
「なんじゃこりゃ」
思わず声が漏れた。何の話よ。店の扉を開け、中に入るとカウンターの上でドラコがぐっすり昼寝をしていた。相変わらず警戒心がゼロね。私は肩をすくめ、ドラコの尻尾をつついた。
「ちょっと、起きなさいよ」
「んあ?」
ドラコが目をこすりながら顔を上げる。
「なんだよ、昼寝の時間に起こすなんて」
「ちょっと聞きたいんだけど、うちの従業員の情報が管理されてないとか言われてるんだけど」
ドラコは欠伸しながら私を見た。
「さあな? 俺、そもそも従業員じゃねぇし」
「…だよね。給料なんて出してないし」
「むしろ、酒とつまみが報酬だろ?」
まったく、酒ギルドの嫌がらせもここまでくると逆に笑えてくる。だったら、こっちも徹底的にやってやるわ。私はニヤリと笑い、カウンターの奥から黒板を引っ張り出した。
「よし、本日より、酔いどれ小屋の情報公開キャンペーンを開始するわ!」
店の前に黒板を立てると、興味津々な客たちが次々と集まってきた。
「お、なんだなんだ?」
「情報公開って、何をするんだ?」
私は胸を張って言い放つ。
「まず、うちの従業員情報を公開するわ!」
ドラコがふわっと翼を広げ、堂々と自己紹介した。
「俺はドラコ!無給の看板ドラゴン!報酬は酒とつまみ!」
「知ってたー!」
「いや、それ新情報じゃねぇ!」
客たちがズッコケる。まあ、これは想定通り。
「次!今日は特別に、酔いどれ小屋のカクテルレシピを公開するわ!」
この言葉に、店内が一気に沸き立った。
「おおっ! これはすごい!」
「どのカクテルのレシピを教えてくれるんだ!?」
「ふふ、じゃあ特別に三つ公開するわ!」
私はチョークを手に取り、黒板に書き始めた。
スターライト・レヴェリー。夜空のような輝きを持つ一杯。ムーンライト・エール、スターダスト・フラワーの蜜、クリスタル・シャード氷を組み合わせた幻想的な味わい。
サンセット・エンブレイス。夕焼けのような色合いと甘酸っぱさを持つカクテル。ブラッドオレンジ・リキュール、ルビーベリー・エキス、微発泡のスパークルハニーが織りなす爽やかな味わい。
ドラゴンズ・ブレス。強烈な刺激と深い香りを楽しめる、火を灯せるカクテル。ファイアスピリット・ラム、スモークシナモン、魔法炎で提供する劇的な一杯。
客たちは大興奮。
「これは…すごい!」
「このレシピ、家でも試せるのか!?」
「酒ギルドじゃ絶対にやらないことを、ここはやるんだな…!」
私は満足げに微笑みながら、カウンターに肘をつく。
「ね? 情報を公開した方が、むしろみんなハッピーになるでしょ?」
「やるなぁ、リリィ…!」
「ここまでやるなら、やっぱりここで飲みたいよな!」
こうして酔いどれ小屋は、デマを逆手に取って客の信頼をさらに強固なものにした。
その夜、ドラコはビールの樽を抱えて得意げに言った。
「情報は自由だぜ!ただし、俺のエールは誰にも渡さん!」
「そこは譲ってもいいんじゃない?」
「ダメだ!」
笑い声が響く店内。こうして今日も、酔いどれ小屋は賑やかに大繁盛したのだった。
─
「…魔法樽の真価を知らぬがゆえに、そもそも情報公開の対象にすらならなかった、というわけか。」
昼下がりの影の中、低く囁かれる。
「ふ…だが、公開され広められて困るのはむしろ我々だ。この件は、むしろこれで終わって良かったと考えるべきか…。」
わずかな沈黙の後、影の一つが静かに息を吐く。
「…仕方あるまい。酒ギルドに伝えねばな。別の手段を考案するように、と。」
昼の喧騒に紛れ、影は音もなく動き出した。
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