第8話 錬金術とお酒のコラボ!
昼下がり、カウンターで次の新作を考えながらグラスを磨いていると、店の扉が勢いよく開き、突風のように奇抜な格好の女性が駆け込んできた。
「ここが噂の『酔いどれ亭』ね! 私の錬金術が、酒の世界とどれだけ融合できるか試させてもらうわよ!」
勢いのまま叫び声を上げた彼女を一瞥すると、黒髪のツインテールにゴーグル。いや、ゴーグルって…額に乗っけたままで、完全に「私は実験好きです!」ってオーラ全開。まさかの客? それともただの変人?
「えっと、どちら様?」
警戒心を隠さずに尋ねると、彼女は得意げに胸を張った。いや、その自信はどこから来るのよ?
「私はアストリア! 錬金術師よ。あなたの酒の腕前、聞いてるわ。だったら、私の錬金術とコラボして、世界に一つだけの酒を作りましょう!」
目をキラキラ輝かせながらまくし立てる彼女。でもちょっと待って――誰が酒の天才って言ったのよ? まぁ、悪い気はしないけど。
「で、何を持ってきたんだ?」
フォルクが厳しい目つきで問いかけると、彼女は大きな鞄をドンッとカウンターに置き、中身を取り出し始めた。
「これよ! エーテルリキッド、それから――いろいろ!」
…何それ。透明な液体に、虹色の粉末、そしてピカピカと光る羽根? いかにも「危ないです」って顔してるんだけど。
「うわぁ…全部怪しい。」
ドラコが目を細めて呟く。その気持ち、分かる。
「怪しくないわ! これ全部合法よ! …たぶん!」
たぶん!? その一言のせいで全く信用できないんですけど。
それでも彼女が提案する『ミスティック・メロウ』という新しいお酒に、少しだけ興味をそそられる。スモークウィスキーをベースに、エーテルリキッドを加えると、グラスの中が虹色に輝くという。軽く温めるとスモーキーな香りが立ち上り、見た目も香りも一級品らしい。
「まぁ、ちょっと面白そうね。でも、安全なものを作ること!」
念を押しても足りない気がするけど、どうせ止められないし、ここは様子を見るしかない。
アストリアは自信満々で調合を始めた。グラスの中で虹色の泡がふわっと立ち上がり、幻想的に輝く。これはいけるかも――そう思ったその瞬間。
「ブシュッ!」
突然、虹色の蒸気がグラスから噴き出して店内を覆い尽くす。嫌な予感しかしない。蒸気の中でドラコに直撃した途端――。
「なんだこれ!? 俺の体が――透明になってるじゃねえか!」
…えっ、ちょっと待って。ドラコ、どこ行ったの? いや、透明になっただけでそこにいるはずなんだけど、これはヤバい!
「ちょっと、アストリア! どうしてくれるのよ!」
慌てて彼女を問い詰めると、アストリアは妙に明るい声で答えた。
「だ、大丈夫よ! すぐに元に戻るはずだから!」
たぶん、ってまた言いそうな顔してる。やめて!
店内は完全にパニック。お客さんたちは大騒ぎだし、透明なドラコが皿をひっくり返してさらに混乱を招く。
「これが透明看板ドラゴンだってことで宣伝にするしかないな。」
フォルクが疲れた顔でそう言うけど、それで解決するとは到底思えない。
数時間後、ようやくドラコの姿が元に戻ると、彼はカウンターを叩きながら怒鳴り散らした。
「おい、もう二度と錬金術なんて持ち込むんじゃねぇ!」
「ごめんってば。でも、ほら、結果的に面白かったでしょ?」
懲りた様子ゼロのアストリア。いや、面白いかもしれないけど、迷惑かけすぎ!
「でも、『ミスティック・メロウ』は本当に綺麗だったわね。」
私はそう呟きながらグラスを磨く。このお酒、もしかして店の新たな看板商品になるかもしれない。
「また新しい実験を試させてね!」
アストリアはそう言い残し、颯爽と去っていった。その背中を見送りながら、私は肩をすくめる。
「まぁ、面白かったし、新しいメニューも増えたし、いいんじゃない?」
こうして『ミスティック・メロウ』は酔いどれ亭の新たな名物となり、一騒動の幕を閉じた――はずだった。
─
影たちは透明になったフォルクの姿を見て、警戒をさらに強めた。「盗みに入ったとしても、透明化した冒険者が待ち構えているやもしれぬ…。他の手段を探さねば──。」
彼らの中に、次第に計画を練り直す必要性が芽生え始めていた。
ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
@chocola_carlyle