第32話 ドラコをスカウト!?
昼下がりの酔いどれ小屋。開店準備を終えた私は、カウンターの奥でグラスを磨いていた。店内には陽の光が気持ちよく差し込み、静かで穏やかな時間が流れている。
カウンターの上では、ドラコが尻尾を揺らしながら、のんびりとナッツをつまんでいた。
「今日もいい天気ねぇ、ドラコ」
「おう、そうだな」
のんびりした返事。こういう時間がずっと続けばいいのに、と思った瞬間だった。
突然、バンッ!と勢いよく扉が開いた。
入ってきたのは、黒いスーツに身を包んだ男。動きに無駄がなく、まるでどこかの組織の使者のような雰囲気を醸し出している。しかも、無駄にキザな笑みを浮かべながら堂々と店内を見渡し、そして――ドラコに視線を向けた。
「これはこれは、酔いどれ小屋の名物マスコット――いや、最高の看板ドラゴンのお方じゃないですか」
なんだか嫌な予感がする。私はすぐにピンときた。
「ちょっと待って、まさか――」
「そう、スカウトに来ました!」
男は得意げに胸を張った。
「酒ギルドは、新しいマスコットキャラを求めているんですよ。我々は市場を調査しました。そして、発見したのです。最も顧客の心を掴む、最高の存在を――そう、あなたですよ、ドラコさん!!」
「…ん?」
ドラコはナッツをぽりぽりしながら首を傾げる。
「だから、うちに来てほしいのですよ! 破格の待遇をご用意しました! 給与は銀貨百枚! しかも、高級酒の飲み放題プラン付き!!」
なっ…!?
思わず息を呑む。
「銀貨百枚に飲み放題だと…」
いやいや、そんな条件、普通ありえない。絶対に裏がある。私はすぐさまカウンターを叩いた。
「ドラコは酔いどれ小屋の一員よ! そんな条件に釣られるわけ――」
「行くか」
「行くの!?」
まさかの即答。
「だって銀貨百枚だぜ!?それに高級酒飲み放題!?悪い話じゃねぇだろ?」
「ちょっと待って!ほんとに行くつもり!?」
「考えてみろよ、リリィ。俺、今のところ給料ゼロだぜ?」
「そ、それは……!」
確かにドラコには給料を払っていなかった。でも、だからってあっさり引き抜かれるのは困る。
「カクテルとおつまみ、即興で作ってあげるわ!それを飲んでから決めなさい!!」
「えぇ…そんなこと言われると、迷うじゃねぇか…」
よし、勝負はここからだ。私はすぐさま動いた。
ドラコのための『ゴールデン・バブル』。
まず、ベースには《ドラゴンハニーラム》を使用。しっかりとしたコクと甘みが特徴の特製ラム。そこに、軽やかな柑橘系リキュール《サンライトオレンジ》を加えて、飲み口を爽やかに仕上げる。さらに、ドラコの大好きな発泡を活かし、特製のスパークリングハーブウォーターを注ぎ込むことで、軽やかな泡の弾ける爽快な一杯に仕上げた。仕上げに、グラスのふちに竜の形を模した金箔を飾ることで、見た目も豪華に。
「さぁ、飲んでみなさい!」
ドラコはじっとグラスを見つめ、それから慎重に一口……
「……っ!!!」
目を大きく見開いた。
「な、なんだこの味は……!?」
「リリィ特製よ!どう、銀貨百枚より価値があるかしら?」
「う、うめぇぇぇ!!しかも、この泡の感じが最高だぜ…!!」
スカウトマンが焦った様子で口を挟む。
「そ、そんな馬鹿な! ならば、つまみはどうです!? 高級食材を使った料理が――」
「つまみも用意してるわよ!」
私はすぐさま、ドラコが大好きな料理を揃えた。
ナッツ好きのドラコには、カリッと香ばしくローストしたアーモンドとクルミを、たっぷりのハチミツと溶かしバターで絡め、ほんのりシナモンを効かせたキャラメリゼ仕立て。甘みとコクが絶妙に絡み合い、噛むたびに広がる香りがたまらない。
次に、焼きたてのハーブクラッカー。生地にはローズマリーとタイムを練り込み、オリーブオイルでサクサクに焼き上げた。その上には、熟成チーズをたっぷりと削り、仕上げに黒胡椒をひとふり。塩気とハーブの香りが絶妙に合わさり、カクテルとの相性も抜群だ。
さらに、じっくりオーブンで焼き上げたガーリックマッシュルームのマリネ。オリーブオイルと白ワインビネガーでじっくり漬け込んだキノコに、香ばしいガーリックとナッツを散らし、軽く炙って旨みを凝縮させた。噛めばじゅわっと広がる濃厚な風味に、ドラコが抵抗できるはずがない。
ドラコは次々とつまみを口に運び、噛みしめるたびに表情が変わる。そして――
「…うめぇ!! これは…これは…!!」
スカウトマンが焦る。
「ま、待ってください!! それでも待遇の良さでは――」
「悪いが、俺はここに残るぜ!!」
「な、なんですって!?」
ドラコは胸を張って言い放つ。
「リリィの酒とつまみを食ったら、他の酒場に行く理由がねぇ!!給料は…まぁ、そのうち考えてくれ」
「そ、そうね…そのうち…」
スカウトマンは悔しそうに拳を握りしめた。
「くっ…今回は引き下がりますが、また来ますよ!! 必ずあなたを引き抜いてみせる!!」
そう言い残し、男は去っていった。私はため息をつきながら、カウンターを拭く。
「ドラコがいる限り、酔いどれ小屋は安泰ね!」
こうして、酒ギルドの引き抜き騒動は、リリィ特製の酒とつまみの力で終息を迎えたのだった。
─
「…ドラゴンは金で動かず、か。」
昼下がりの陽光が降り注ぐ街の片隅、建物の影の中で低い声が漏れる。
「そもそも、ドラゴンは誇り高い種族。金で操れるはずもない…それくらい、初めから分かっていたことだがな。」
強すぎる日差しが地面を照らす中、影だけがひそやかに蠢く。
「とはいえ、我々の組織も計画遂行に向けてドラゴンの確保に動くと聞いた。うまくいけば、有力な対抗手段となるやもしれん…」
光と影が交差する場所で、一つの影が微かに頷く。
「別動部隊に期待しよう。やつらならば、確実に手を打つはずだ。」
昼の喧騒に紛れ、影は静かに動き出した。
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