第28話 求婚ラッシュにギルド崩壊!?
バァン!!!!!!
酒場の扉が勢いよく開いた。
「またか!!!」
私はカウンター越しに反射的に叫ぶ。いつもの酔っ払いが乱入してきたのかと思いきや――違った。
そこに立っていたのは、ピシッとした制服に身を包んだ女性。長い髪を一つに結び、書類の束を抱えたその姿は――
「もう耐えられません!!!!!」
「え、何事!?」
ギルドの受付嬢、エレナだった。冒険者ギルドで受付を務め、どんな荒くれ者にも冷静に対応する優秀な女性――のはずなんだけど、今は完全にキャパオーバーしている。
彼女はカウンターにドサッと書類を置き、肩で息をしながら言った。
「リリィさん! ジーナさん!! 聞いてください!!!」
「なによ、そんな息巻いて」
「モンスターが暴れた!?それともギルドが襲撃された!?」
「それよりも大変なことです!!!」
「それよりも!?」
酒場の客たちが「なになに?」と耳を傾ける。
エレナは書類の束をバァン!と広げ、怒りの形相で叫んだ。
「求婚リクエストが多すぎて仕事になりません!!!!」
「……は?」
一瞬、静寂。
そして――
「「贅沢な悩みだなぁぁぁぁ!!!」」
私とジーナがハモった。
「ちょっと!? 何その反応!?」
エレナはムッとした顔で書類をバシバシ叩く。
「これ、全部、私宛の求婚申請書なんです!!もう何百枚も!!」
「えぇ~~~~!?そんなに!?」
「なによ、すごいじゃないの!?」
「すごくないです!!!毎日処理しなきゃいけないんですよ!?本来の業務は冒険者の仕事の仲介なのに、気づけば私の結婚相手を決める作業になってるんです!!!」
エレナは頭を抱えながら、さらに続ける。
「この間なんて、求婚者たちがギルドの前で決闘を始めて!!なんで私は普通に働いてるだけなのに、そんな戦場のヒロインみたいな扱いなんですか!!?」
「そりゃあ、ギルドの顔とも言える受付嬢が美人で優しくて、気立てもいいなら、みんな惚れちゃうわよねぇ?」
「そうよねぇ?」
「いやいやいやいや!!!なんとかしてください!!!」
「無理!!!」
即答。
エレナがガックリと崩れ落ちる。
「はぁぁぁ…。私だって、普通に仕事がしたいだけなのに…」
「で、誰かいい人はいないの?」
「いません!!!! だって、ここにある申請書、全部職業冒険者ですよ!?みんな、依頼を受けに来るついでにプロポーズしてるんですよ!?何か違いません!?」
「…まぁ、普通に考えたら、職場恋愛っていうか、職場で求婚されまくるってなかなかないわよね…」
私は腕を組みながら考える。
「じゃあ、ギルドのカウンターに『求婚禁止』の張り紙でも貼る?」
「もう貼りました!!!」
「えぇ、それでも効果なし?」
「なしです!!! 『心は張り紙では止められない』とか言って、みんな堂々と申し込んできます!!!!」
「うわ、名言っぽく言うのがまたタチ悪い…」
「でしょ!?!?!?」
エレナが机に突っ伏す。
「はぁぁ…どうしたらいいんでしょうか…」
「うーん…」
ジーナがワインをくるくる回しながら、ニヤリと笑う。
「だったらさ、いっそ求婚リクエストの審査をギルドの依頼形式にすればいいんじゃない?」
「は?」
「例えば、『エレナの求婚資格試験』っていう依頼を出して、申請者に厳しい試練を課すのよ。ドラゴンの牙を持ち帰るとか、王国一のレストランを予約するとか」
「……!!」
エレナがピクッと顔を上げる。
「なるほど…それなら、99%の冒険者はリタイアする…!!」
「そうそう! 最後まで残った人が、本当にふさわしいかどうか判断できるじゃない?」
「え、でも最後まで残ったら、私、本当に結婚しなきゃいけないじゃないですか!?」
「そこは最終試験を突破した者に限り、一度だけデートのチャンスを与えるとか?」
「えぇぇ…でも、それ…ちょっと楽しそう……?」
「でしょ?」
「…じゃあ、やってみます!!!」
エレナはガバッと起き上がると、書類をまとめ始めた。
「今からギルドに戻って、すぐにこの『求婚資格試験』を依頼として登録します!! そして、もう二度と気軽にプロポーズできないようにしてやります!!!!」
「おお~」
「なんか、たくましくなったわね」
「もうこうでもしないと、私の平穏は戻ってこないんです!!!」
エレナがバタバタと店を飛び出し、酒場がいつもの騒がしさを取り戻した頃、私はカウンターに戻って特製のカクテルを用意した。
「ジーナ、今日はちょっと贅沢にいきましょうか」
「いいわね。最近は面白い話題が続いたし、私たちも一息つかなきゃ」
私は琥珀色のリキュールに、ふわりと柑橘の香りを足して、フレッシュハーブで爽やかなアクセントを添える。仕上げにスパークリングを注ぎ、軽やかな泡を立てた。
「よし、名前は『エレナに負けない!スペシャル』…なんてどう?」
「ぷっ、彼女が聞いたら怒りそうね。でも美味しそう。」
笑い合いながらグラスを合わせ、二人で一口味わう。心地よい甘みと微かな苦味が、まるで今夜の出来事を彩るように舌の上で広がった。
「それにしても、エレナも大変よねぇ。あんなに求婚されるなんて」
「あんなに魅力的なら、みんなほっとかないわよ。それが災いするのも皮肉だけど」
ジーナはグラスを軽く傾けながら、ため息交じりに笑う。
「でも、こういう話を聞くと、私たちに相応しい人っていつ現れるんだろうね、って思っちゃうわ」
「はは…ほんとにねぇ」
私もグラスを持ち上げ、透明な液面の泡がキラリと光るのを見つめる。
「ま、焦っても仕方ないわよね。美味しいお酒と、面白い仲間がいてくれるだけで、今は十分楽しいし」
「そうね。いつか、ちゃんと私たちを理解してくれる素敵な人が現れてくれたら、それでいいわ」
カラン、とグラスを合わせ、泡が弾ける。
「じゃあ、今夜はこの一杯に乾杯。エレナにも負けないくらい、私たちも面白く生きましょうか」
「賛成!」
こうして、ダンジョンの謎よりもやっかいな(?)恋の問題をひとしきり語り合いながら、酔いどれ亭の夜は更けていくのだった。
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