第25話 ジーナの婚約破棄計画!
夜の酔いどれ小屋。カウンターで私がグラスを磨いていると、ジーナがため息をつきながらドスン!と席に座った。
「…リリィ、ちょっと愚痴らせて」
「あら、どうしたのよ?」
「親が、また縁談しろって言ってきたのよ…!」
「あぁ~…そりゃまた面倒な話ね」
ジーナはしっかり者で商才もあるけど、恋愛に関しては完全に無頓着なタイプ。家は名のある商家だから、結婚も仕事の一部として扱われてるらしいけど…まぁ、彼女にとっちゃ大迷惑よね。
「で、どうするの?」
「どうするも何も、破談にしたいのよ!!何とかして破局させられないかしら?」
「ふむふむ…なるほどね」
私はニヤリと笑う。
「なら、いいお酒があるわよ!」
「…嫌な予感がするわね」
「大丈夫! 相手への感情が反転するお酒よ!」
「は?」
「飲むと、好きな人が嫌いになって、嫌いな人が好きになるの!!だから、このお酒を相手の男性に飲ませれば、ジーナのことを嫌いになってくれるはず!」
「…そんなの、絶対ロクなことにならないわ」
「でもやるんでしょ?」
「…まぁね」
リリィ特製! 感情反転カクテル『リバース・ロマンス』
私は、特別な素材を取り出した。
まずは、妖精の森で採れるトリックスター・ベリーのエキスを使う。これは、飲むと感情が反転するという魔法の果実。
次に、ベースとなるお酒には、甘くもほろ苦いミスティック・リキュールを使用。 これが、飲んだ人の感覚を微妙に狂わせる。
そして仕上げに、色がゆっくりと変わるカメレオン・シロップを加え、神秘的な見た目に仕上げる。出来上がったお酒は、淡い紫からピンクへと変化し、まるで恋の魔法にかけられたかのような美しさ。
「よし、完成!」
「…本当に大丈夫なのかしら」
「飲ませるしかないわね!」
数日後。酔いどれ小屋に、ジーナの縁談相手がやってきた。
男の名前はクラウス・フォン・ローエン。立派な商家の跡取りで、金髪碧眼の整った顔立ち。礼儀正しく、落ち着いた雰囲気の紳士だった。
「初めまして、ジーナさん。お父上からお話は伺っています」
「ええ、こちらこそ」ジーナは硬い笑顔で対応する。
――まぁ、見た感じ悪い人じゃない。
でも、ジーナが嫌がってるんだから、こっちとしては作戦を決行するのみ!!
私は、にっこり笑いながら、お酒を用意した。
「さぁ、せっかくのご縁だし、まずは一杯どう?」
「ほう、これは?」
「当店の特別カクテル『リバース・ロマンス』よ!縁を祝うお酒なの」
クラウスは興味深そうにグラスを手に取る。
「なるほど。では、いただきましょう」
――ゴクッ……
クラウスが、お酒を口に含む。
(よし…これでジーナのことが嫌いになるはず!!)
……が。
「……っ!!」
クラウスの瞳がキラリと輝いた。
「ジーナさん!!」
「えっ?」
「私は…私は、あなたと結婚したい!!!」
「……は?」
――えっ、なんで!?!?
「私の心がこんなにも強く惹かれるとは……!なんという運命だ!!」
「いや、ちょっと待って!! なんでこうなるのよ!!!」
ジーナが焦る。
「これは運命に違いありません!! もう待てません!!」
「おいおいおいおい!!!」
店中がざわめく。
「ちょっと!! リリィ!! どうなってるのよ!!!」
「おかしいわね!?ちゃんと感情反転するはずなのに!!」
「むしろ効果が逆なんだけど!?」
――やっちまった。
「おいおい、こいつ、完全にスイッチ入ってるぜ」フォルクが笑いをこらえている。
「すまんが、もう逃げられねぇな」ドラコがニヤニヤしてる。
「いやいやいや!! 何とかしなさいよ!!!」
「……あっ」
私は思い出した。
「このお酒、もう一杯飲むと、さらに感情が反転するのよ!」
「じゃあ、早く飲ませなさいよ!!!」
「クラウスさん!! もう一杯どうぞ!!」
「ほう、ならば喜んで!」
――ゴクッ。
クラウスが二杯目を飲む。
「…っ!?!?!?!?!?」
「ど、どう?」
クラウスの顔がみるみる青ざめる。
「あ、あれ……!? なんでこんなに結婚したいとか思ってたんだ!?!?」
「やっと戻ったわね!!!」
クラウスは、ハッとしてジーナを見つめた。
「…その、申し訳ありません。私は、縁談というものに元々興味がなかったのですが…つい、盛り上がってしまいました…」
「…そう、ならよかったわ」ジーナは安堵した表情を見せた。
「つまり、お前も乗り気じゃなかったってことか?」フォルクが呆れたように言う。
「ええ…本当は、両親に言われて仕方なく…」
「それなら、今回の話はなかったことにしましょう」
「…感謝します」
こうして、酔いどれ小屋の縁談破棄作戦は、無事成功(?)したのだった。
そして二人が帰った後、私はカウンターに肘をつきながら、先ほどの喧騒を思い出してため息をついた。感情が反転するカクテル――まさかここまでの混乱を引き起こすとは思ってなかった。
「ま、結果オーライってことでいいのかしら?」
そんな独り言を呟きながら、私はふとカウンターに残ったグラスを見つめた。
「そうだ、せっかくだし、ドラコにも試してみる?」
私はニヤリと笑い、ドラコの前にカクテルを滑らせた。
「おい、なんだよ急に」
「いいから、飲んでみなさいよ。ほら、ドラゴンの味覚にも合うかどうか試したいし!」
「…へぇ、まぁいいけどよ」
ドラコは怪訝そうな顔をしながらも、一口飲んだ。そして、ゆっくりとグラスを置く。
「ふーん…」
「どう? 味は?」
ドラコはじっと私を見つめ、つまらなそうに鼻を鳴らした。
「…まぁ、普通じゃねぇか?」
「あら? なんかそっけないわね」
「別に?」
いつもなら「お前の酒は最高だぜ!」とか「こんなの飲んだら他の酒場行けねぇな!」とか、べた褒めするくせに、今日はやけにクールじゃない?
「……あれぇ?」
私は首を傾げる。すると、ドラコはさらにそっけない態度を取る。
「つーか、もうちょっと静かにできねぇの?」
「なっ!? 私が!? 騒がしい!?」
「あと、酒もいいけど、店の掃除もうちょいちゃんとやれよな」
「ぐぬぬ……!!」
思わず拳を握りしめる。これは…カクテルのせいね!? 絶対そう!!
「ふぅん…なるほどねぇ」
私はニヤリと笑いながらカウンターに肘をついた。
「ドラコ、アンタ、まるで私に興味がないみたいに振る舞ってるけど」
「そりゃそうだろ?」
「つまり、逆ってことよねぇ?」
「……は?」
「感情が反転するってことは…つまり、アンタは普段、私のことが大好きってことじゃないの?」
「!!?」
ドラコの尻尾がピクッと揺れた。
「えっ、ちょっ…な、何言ってんだよ!? そ、そんなわけねぇだろ!!」
「ふふふ~ん♪ へぇ~、そうだったのねぇ~」
「だから違うって!!!」
思わず顔を赤くして吠えるドラコを見て、私は満足げに笑う。
「ま、そういうことにしとくわ♪」
「お、おい、リリィ!? 俺はそんな……!」
「はいはい、感情反転カクテルはこれにて封印♪」
ドラコの必死な声を聞きながら、私は鼻歌まじりにグラスを磨くのだった。
ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
@chocola_carlyle




