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酔いどれエルフと酒の歌  作者: チョコレ
第二杯 酔いどれ小屋、開店!
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第24話 大人の味ってこんななの!?

「リリィさぁぁぁん!! 私、大人になりましたぁぁぁ!!!」


 ――は!?


 突然、酔いどれ亭の扉が勢いよく開き、ピンクのふわふわが店内に飛び込んできた。


 店内の空気が一瞬静まり、全員が動きを止める。フォルクはジョッキを傾けたまま硬直し、ドラコは口に入れかけた燻製豆を落とし、ジーナは酒の在庫を確認する手を止めて鋭く目を細めた。


 そして私。カウンター越しにピンクのふわふわと目が合う。

 ひらひらのワンピースに、大きな瞳をキラキラさせたその姿。

(…また可愛いのが来たわね…)


 店中の視線を集めながら、ピンクのふわふわ――いや、少女はスカートを翻し、胸を張った。


「私の名前はミア!! ついに成人になりました!! だから、初めてのお酒を飲みに来ましたぁぁぁ!!!」


 フォルクが楽しげにジョッキを置き、口角を上げる。

「…また厄介そうなのが来たな」


 いや、ほんとそれ。


 ミアはカウンターに駆け寄り、キラキラした目で私を見つめてきた。

「リリィさん! 私に"大人の味" を教えてくださいっ!!」

「…いや、なんかプレッシャーがすごいわね…!!?」

「もちろん"大人の味"といえば、渋くて、苦くて、強いお酒ですよね!?」

「いやいやいや、初めてならもっと飲みやすいのから……」

「いえ!! 私はもう大人です!!だから、一番"大人の味"なお酒をください!!!」


 フォルクが笑いながら言う。


「リリィ、せっかくだし、一番渋いのを出してやれよ?」

「だから、初めてのお酒には向いてないってば!!!」


 ドラコが尻尾を揺らしながらニヤニヤしている。


「おいおい、お嬢ちゃん、そんなに大人ぶりたいなら"ストレートの烈火ウイスキー"でも飲むか?」

「おぉぉぉ!!それこそまさに大人の味!!」

「いや、ダメよ!!!!それはお酒の最終形態なのよ!!!!」


 これ以上、ミアの無謀な挑戦を見ていられない。仕方なく、初心者向けのカクテルを用意することにした。


「よし、じゃあこれ! "リリィ特製・初めての一杯カクテル"!!」


 フルーツの甘みと爽やかな酸味が効いた、初心者でも飲みやすい一杯。ミアは目を輝かせながらグラスを手に取る。


「…ごくっ…」

「どう?」


 ミアはしばらく味わい――


「…な、なにこれ…!?!?」

「えっ、ちょっと待って、どんな意味!?」

「すっごく美味しいのに、なんかこう…思ってた"大人の渋さ"じゃない…!!!」

「だからぁ!!初めて飲むならこういう方が飲みやすいのよ!!!!」


 ミアはぐっと拳を握りしめた。


「…リリィさん!!やっぱり"本当の大人の味"をください!!!」

「ちょっと待って、まだ続けるの!?」

「私は"苦いのを乗り越えてこそ大人"だと思うんです!!!」

「そういうのは仕事とか人生で学びなさい!!!」


 フォルクがニヤリと笑って言う。


「"大人の味"ってのは、ただ苦くて渋いもんじゃねぇ。"自分が楽しめる味を知ること"なんだよ」

「…楽しめる味?」

「そうさ。無理して苦いのを飲むより、自分が"美味しい"と思える酒を見つける方がよっぽど"大人"だろ?」

「…っ!!」


 ミアは目を丸くし、そして小さく頷いた。

「じゃあ…リリィさん、私が"美味しい"って思えるお酒をください!!」

「ようやく素直になったわね!!!」


 私はカウンターをバン!と叩き、特別な一杯を用意することにした。


 リリィ特製!『初めての大人カクテル』


 まず、ベースとなるのは香り高いフルーティ・ホワイトラム。熟した果実を思わせるまろやかな甘みと、ほんのりとしたバニラの香りが鼻をくすぐる。グラスを傾けた瞬間、ふわりと広がる芳醇な香りに、飲む前から心が踊る。


 次に、ほんのりビターなオレンジ・ビターズを数滴。甘いだけでは終わらせない、大人の余韻を残すためのスパイス。口に含むと、オレンジの皮のようなほのかな苦味が舌に広がり、ふわっとしたラムの甘さに上品な締まりを加える。


 そして、最後の仕上げにバニラ・ハニーシロップをひと垂らし。優しい甘さが全体を包み込み、まるで夕暮れ時に溶け込む一筋の陽光のように、温かく深みのある味わいを作り出す。


 氷を入れたグラスに注げば、琥珀色の液体がゆっくりと流れ込み、グラスの内側をなぞるように光を受けて輝く。仕上げに、オレンジピールを軽く絞り、香りのベールをかければ――完成。


「さぁ!! これが『初めての大人カクテル』よ!! これで"本当の大人の味"を楽しみなさい!!!」


 ゴォォォ……!!(※効果音は気のせい)


 ミアは目を輝かせながらグラスを受け取った。


「おぉぉぉ!!! これが……!!!」


 ――ゴクリ。


 グラスを唇に寄せ、一口。舌の上でラムの香りがふわりと広がり、柑橘の爽やかさとバニラの甘さが絡み合う。そして最後に、ほのかなビターな余韻がゆっくりと引いていく。


「…っ!!」

「どう?」


 ミアはゆっくりと目を閉じ、しばらく味わったあと――


「…これ…美味しい……」

「でしょ!!!!!」

「すごい…最初に甘さがきて、次にちょっと苦くて、それで最後にまたふわっと甘くなる…! これが、大人の味…!!!」

「そうそう! 甘さだけじゃなくて、苦みとか香りの変化を楽しむのが“大人のお酒”なのよ!」


 ミアはしばらくグラスを見つめたあと、ふっと笑った。


「なんか、"大人の余裕"ってこういうことなのかなって思いました!」

「だから最初からこうしなさいよぉぉぉ!!!!!」

「リリィさん!!私、これから"美味しい"って思えるお酒をどんどん見つけていきます!!!」

「…それはいいけど、無理しないでね?」

「はいっ!!!」


 ……と、そこまではよかった。


「もう一杯!!」

「ダメ!!!」

「でも、大人は飲みたい時に飲むものでは!?」

「大人は自制心があるの!!!今日は一杯で終了!!!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」


 ミアの悲鳴と、店内に響く笑い声。

 こうして、彼女の“美味しいお酒探し”が始まった。


 それから数日後――

「リリィさぁぁぁん!! 火の国の激辛ラムが手に入りましたぁぁぁぁ!!!」

「ちょっと落ち着きなさいってば!!!!」


 ――こうして、ミアの“大人の味探し”は、いつの間にか“酒巡り”へと進化を遂げていくのだった。

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@chocola_carlyle

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