第17話 酒ギルド認定落ちました!?
昼下がり、心地よい風が店の中に吹き込む――はずだった。
「って、なにこれえええ!?!?」
店の扉を開けようとした瞬間、足元にうず高く積まれた書類の束。まるで私を待ち伏せしていたかのように、ずしんとした存在感を放っていた。
「あんた誰よ!? え、書類!? そんな物体が許されるわけ!?」
慌てて表紙を確認すると、そこにはでっかく書かれていた。
『酒ギルド品質認定証』
嫌な予感が止まらない。いや、むしろ大暴れしている。
恐る恐る書類を開くと、目に飛び込んできたのは――
「酔いどれ小屋、品質認定ならず!」
「はあああああ!?!?」
昼下がりの静けさをぶち破る大絶叫。店の奥で気持ちよく昼寝していたドラコが、ぴくりと耳を動かして目を開ける。
「…リリィ、昼下がりに騒がしいな」
「騒ぐわよ!! だってこれ見なさいよ!!」
私は書類をドラコの前にバン! と叩きつけた。
「酒ギルドが新しく『品質認定』とかいうのを始めたんだけど、うちが通らなかったの!!」
ドラコは面倒くさそうに書類をめくると、目を細める。
「……おいおい、なんだこの理由」
――「酒の味は申し分ないが、エルフの酒は基準外」
――「店の看板ドラゴンが生意気である」
――「提供されるつまみが独創的すぎる」
「…なによこれ!!?」
「おい、俺関係あるのか!? 俺のせいで認定取れなかったのか!?」
「いやもう全部理不尽すぎるでしょ!!」
そこへ、店のドアが勢いよく開いた。
「おーい、昼間っからうるせぇな……なんだ?」
フォルクがのんびりした顔で入ってきたが、私が書類を突きつけると、すぐに目を細めた。
「これよこれ! 酒ギルドがこんな意味不明な品質認定を始めて、うちだけ落とされたの!!」
フォルクは書類をペラペラとめくり、ふっと鼻で笑った。
「…クソみてぇな基準だな」
「でしょ!!?」
「まぁ、いいじゃねぇか。別にあんなギルドの認定なくても、客は来るだろ?」
「それはそうなんだけど…問題はここ!!」
私は書類の一番下をバンッと指差す。
「品質認定のない酒場では、ギルド加盟の酒屋から酒の仕入れができません」
フォルクの表情が一変した。
「なっ……!!?」
「つまり、うちにはもう正式に酒を売ってくれる業者がなくなるってことよ!!」
「それは…やべぇな…」
その時、ドラコがニヤリと笑う。
「だったら、直接仕入れりゃいいんじゃねぇか?」
「え?」
「ギルド経由じゃなく、直接酒を作ってるとこから買えばいいだろ?」
私は一瞬考え込む。
「……!!!!!」
「そもそもお前んとこ、すでにエルフの秘蔵酒とか勝手に仕入れてたじゃねぇか。ギルドの流通とか関係ないだろ」
「その手があったわね!!!」
私は勢いよく拳を握りしめた。
「こうなったら、もうこっちで独自ルート作っちゃうわよ!! ついでにうち限定の特別酒とか作ってやる!!」
フォルクがニヤリと笑う。
「おお! そっちのほうが面白そうだな!!」
私はすぐさま、ある人物へ向けて魔法の通信を飛ばした。
『リーヴァン、聞こえる? 千里眼使って、時々お店を覗き見してるの、知ってるんだから。聞かないふりしても無駄よ。もうあなたのマナの動きは捕らえたから、むしろもうこっちからそっちが見えてるわよ』
びくっとリーヴァンが跳ね上がるのが見えた。
『相変わらず化け物だなお前は…』
「ってわけで、エルフの秘蔵酒を仕入れるために協力して!」
『……は?』
リーヴァンの動きが止まる。
「だってリーヴァンって、エルフの里の権力者でしょ? 最高の酒を仕入れられるツテぐらいあるでしょ?」
『ふむ…確かに、エルフの里には人間が口にしたことのない酒がいくつもある』
「それよそれ! それを仕入れて、酒ギルドをギャフンと言わせるの!」
『待て……まさか私にその交渉をしろと言うのか?』
「当然じゃない!」
『嫌だと言ったら?』
「え、エルフの誇りにかけて、こんな仕打ちを許していいの? いいの?」
『む……』
リーヴァンは目を閉じ、しばらく考え込んだ。
『…いいだろう。エルフの誇りにかけて、酔いどれ小屋に相応しい酒を仕入れよう』
「よし決まり!」
『…だが、条件がある』
リーヴァンが私をじっと見つめる。
『お前も、エルフの里に戻って直接交渉に加われ』
「……えっ?」
『私だけに任せる気ではあるまいな?』
「え、でも…私、酒場の店主やってるし…」
『条件を飲めないのか?』
「……むむむ!! 仕方ない!! 行くわよ!!!」
こうして、酒ギルドの認定なんかなくても最強の仕入れルートを作るために、私はエルフの里へ乗り込むことになった。
最高の酒を手に入れて、ギルドを見返してやるんだから!!!
─
「…酒ギルド、やるではないか。」
昼間の影の中、ひそやかな声が落ちる。
「そもそも、仕入れができなくなっては営業も続けられまい。」
「あやつは幹部も気にかけている存在だ。何をしでかすか分からん…。」
「注視が必要だな…。」
昼の静寂に紛れ、影は音もなく散った。
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