第14話 神々のご意向!?
店の扉が静かに開いた。
「神は言っている――酔いどれ小屋で酒を飲めと」
私はグラスを拭く手を止めた。カウンターの向こう、そこに立っていたのは銀髪の少年。紫の瞳は不思議な光を宿し、まるで世の理を超越しているかのような雰囲気を纏っている。
…こういうタイプ、絶対めんどくさい。
「……あんた、何者?」
少年は静かに腰を下ろし、私をじっと見つめた。
「神は言っている。ここで酒を飲めと」
「帰れぇぇぇぇぇ!!!!!」
私はカウンターをバンッと叩き、全力で叫んだ。
「どう見ても未成年でしょ!!!」
少年は落ち着いたまま、一本指を立てて言う。
「だが、神が言っているのだ」
「神が何を言おうと、法律がダメって言ってんのよ!!!」
「神は法律の上位概念」
「うるせえ!!!」
隣でフォルクが吹き出し、ドラコが尻尾をバタつかせる。
「こいつ、すげえな…」
「なかなかのツワモノだぜ」
少年はしばし考え込み、ぽつりと呟いた。
「では、私は未成年ではないということにしよう」
「だから無理!!!」
「神は言っている。酔いどれ小屋の酒はこの世の理を超えていると」
「そうかもしれんけど!!! だからってお前が飲んでいいわけじゃねぇ!!!」
少年は静かに手をかざし、宙に奇妙な魔法陣を描く。
「おい、変なことするなよ?」フォルクが警戒して身構える。
「これは『神の加護』の証。これを持つ者は、あらゆる制約を超越する」
「いや、そんなもんで酒が飲めると思うなよ!!!」
私は思いっきりツッコミを入れた。
「神の加護? そんなの関係ないわ!! ここは私の酒場!! 私のルールが絶対!!!」
少年は一瞬考え込み、やがて真剣な顔で頷いた。
「交渉決裂か」
「最初から成立してねぇよ!!!」
私は頭を抱えた。普通の客なら放り出すところだけど、こいつがこのまま帰るとは思えない。
…仕方ない。こうなったら、こっちも知恵を絞るしかない。
「分かったわ。神が言うなら、お酒を出してあげる」
「ほう…?」
少年の瞳が一瞬だけ輝く。
私はカウンターの奥へ行き、酒棚とは別の貯蔵庫から、厳選した果実を取り出した。選んだのは、黄金の柑橘、深紅のミストベリー、熟成されたナイトグレープの果汁。どれも高級酒にも匹敵する極上の風味を持つ。
「神にふさわしい一杯を作るわよ…!」
まず、サンオレンジの皮を優しく擦り、香りを立たせる。果汁を搾ると、黄金の液体がグラスに注がれ、甘く爽やかな香りが広がった。
次に、ミストベリー。妖精の森で採れたこの果実は、深い甘みと酸味を併せ持ち、ほんのりとした渋みが味に奥行きを加える。これをじっくり煮詰め、果実のエキスを凝縮させる。
最後に、ナイトグレープ。夜の魔力を秘めたこの葡萄は、濃厚な甘みとまろやかな余韻が特徴。これをオレンジとベリーの果汁と混ぜ合わせることで、まるで上質なワインのような重厚な味わいが生まれる。
仕上げに、氷の精霊が宿る氷片をグラスに沈める。ゆっくりと溶け出すことで、温度が下がるとともに味わいが変化する特別仕様だ。
私は自信たっぷりにグラスを差し出した。「さぁ、神に捧げる一杯よ」
少年は目を細め、グラスを手に取ると、静かに香りを嗅いだ。そして、ゆっくりと口に含む。
――その瞬間。
少年の表情が一変した。
「……っ!!」
紫の瞳が驚きに見開かれる。
「これは…まさしく神々の飲み物…!!」
「でしょ?」私はにっこり笑う。
「神は言っている…この一杯を崇めよと…」
「そうよそうよ、ありがたく味わいなさい!」
少年はグラスを両手で包み込み、大事そうに飲み干した。
「……」
「どう? 満足した?」
「……うむ」
少年は静かにグラスを置くと、満ち足りた顔で頷いた。
「神は言っている。これで満足せよと」
「ほらね!! 酒じゃなくても美味しい飲み物はあるのよ!!」
「…神はさらに言っている。また来いと」
「帰れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
こうして、酔いどれ小屋の未成年飲酒未遂事件は「奇跡の果実酒」という新メニューの誕生をもって幕を閉じた――はずだった。
数日後、また扉が開く。
「神は言っている。今日はスパイス酒がいいと」
「帰れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
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