第6話 盗まれたつまみの謎!
「おいリリィ、俺のつまみがねえぞ!」
常連のフォルクがテーブルを叩きながら叫ぶ。
「何言ってんのよ、さっき出したばかりじゃない。」
カウンター越しに睨みつけながら応じると、フォルクがテーブルを指差した。
そこには、数分前に出したはずの 「月影リーフのハーブチップス」 の皿がぽっかり空っぽになっていた。
月影リーフのハーブチップス――薄くスライスした月影リーフを特製のスパイスミックスで味付けし、魔法燻製で軽く炙った一品だ。香ばしい香りとパリッとした食感がたまらず、さらに添えられたレモンバームの爽やかな香りが後を引く。「この香ばしさに勝るつまみはない!」と冒険者たちが口を揃えるほどの人気メニュー。
「…え、どこいったの?」
私は眉をひそめながら近づく。
「知らねえよ! 食べようと思ったら、消えてたんだ。」
まさか、つまみ泥棒!?こんな小さな店でそんなことが起きるなんて、信じられない。いや、信じたくない!
「誰かが間違えて持って行ったんでしょ。」
とりあえず場を収めようとすると――
「へっくしゅん!」
隅っこでくつろいでいたドラコが突然大きなくしゃみをした。
その瞬間、青い鱗がきらりと光り、ポロリと 「月影リーフのハーブチップス」 が一枚転がり落ちる。
「ちょっと、ドラコ!」
私は額に手を当て、深いため息をつく。
「何だよ、食べたんじゃねえぞ。ただちょっと隠してただけだ。」
ドラコは悪びれた様子もなく、しっぽを揺らしてのんびりと答える。
「隠してどうするのよ!?」
呆れ果てる私の背後で、別の冒険者が手を挙げた。
「おい、俺のクラッカーもなくなった!」
今度は 「星風のクラッカー」 まで忽然と消えていた。
星風のクラッカー――魔法で発酵させた生地に細かく刻んだ星風ハーブを練り込み、薄く焼き上げたクラッカー。口に入れると、星風ハーブの軽やかな香りが広がり、ほんのり塩味が効いていて酒が進む一品だ。これまた冒険者たちの間で評判の高いつまみで、毎晩すぐに売り切れる。
「ドラコ、まさかまたあんたじゃないでしょうね?」
鋭い目で問い詰めると、ドラコはのんびりと首を振る。
「俺じゃねえよ。ほら、目の前で消えたんだ。」
「消えた…?」
店内がざわつく。つまみが次々と消えるなんて普通じゃない。
「よし、全員、怪しい動きをしてないかチェックよ!」
私は声を上げ、冒険者たちと一緒に店内を調べ始めた。
フォルクが腕を組みながら呟く。
「こんな狭い店で、どうやって持ち去るんだ?」
バタンッ!
扉が勢いよく開き、ジーナ・ロスティアが入ってきた。
「また何か騒ぎ? 一日くらい静かにできないの?」
眼鏡越しの冷たい視線が私を射抜く。
「つまみが次々と消えてるのよ! 犯人を探してるところ!」
ジーナが呆れた顔で口を開こうとしたその瞬間――
「ぴぎゃっ!」
フォルクのバッグの中から、小さな鳴き声が響いた。
「な、なんだ!?」
慌ててフォルクがバッグを開けると、中から透明なスライムが飛び出してきた。体内には、ぎっしりと詰め込まれたつまみの数々――。
「ちょっと、待ちなさい!」
私はスライムを追いかけ、ジーナに叫ぶ。
「ジーナ、捕まえて!」
ジーナが手を伸ばすも、スライムはぬるりとすり抜ける。
「ドラコ、出番よ!」
ドラコがカウンターから飛び上がり、スライムの前に立ちはだかった。
「俺の泡攻撃、見せてやるぜ!」
勢いよく吹き出した泡がスライムを包み込み、その動きを止める。
捕まえたスライムの体内には、ハーブチップスやクラッカーがぎっしり。
「なんだ、犯人はこいつだったのね。」
ほっと息をつきながらスライムを覗き込む私。しかし――
ジーナが険しい顔で呟く。
「どうしてこんなスライムが店内に?」
「たまたま迷い込んだんじゃない?」
軽く流そうとするが、ジーナは首を横に振る。
「いや…おそらく魔法樽のマナが原因よ。」
その言葉に店内が静まり返る。
「魔法樽のマナがスライムを呼び寄せたの?」
「何らかの影響で、周囲のモンスターが変化した可能性が高いわ。」
ジーナの鋭い推察に、店内の冒険者たちも顔を見合わせた。
「ま、犯人がわかったんだから、これで一件落着でしょ!」
私は笑いながらスライムを片付ける準備をする。
「全然落着してないわよ!」
ジーナが苛立たしげに声を上げる。
「次はこの樽の暴走を止める対策を考えなさい!」
「大丈夫よ! 次の新作酒で全て解決!」
「だから、それが原因だって言ってるの!」
笑い声と怒声が交錯する酔いどれ亭。
その夜も賑やかなまま、深く更けていった――。
─
その時、遠くから黒いフードの男が店を見つめていた。
「やはり、あの魔法樽…興味深い。」
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