第13話 泡と青の狂騒曲!
昼下がりの酔いどれ小屋、黒髪ツインテールにゴーグルのアストリアが勢いよく飛び込んできた。その手には奇妙な青銅の壺。そして、彼女のキラキラした目が「また厄介ごとが来たな」と確信させる。
「リリィ!これよ、これ!私の最新発明、『バブルブリュワー』!これさえあれば、どんな小さな酒場でも瞬時に美味しいビールが作れるわ!」
…ほらね。案の定。
「それ、本当に安全なの?」
「錬金術における完璧って言葉、私のためにあるのよ!」とアストリア。こういう時の彼女の自信は、だいたい不吉な前兆だ。
試しに装置をカウンターに置いて実演が始まる。錬金石をセットし、麦エキスと水を投入。ポコポコと泡が立ち上がり、甘い麦の香りが広がっていく。なるほど、一見順調に見える。そう、一見ね。
「うわっ、なんか膨らんでるけど?」
「ちょっと過剰反応しただけよ!問題ない、問題ない!」
その言葉が終わらないうちに、装置から勢いよく蒸気が漏れ始め――
「ボンッ!」
音を立てて壺が吹き出す泡。店内は一瞬で白い海に変わった。天井から床、そして私まで、泡が全てを包み込む。
「ちょっと、何これ!視界ゼロなんだけど!」
私の叫び声も泡に吸収されそうになる。アストリアは焦りつつも装置をいじるが、操作パネルも泡まみれでまともに動かせない。
「だ、大丈夫!たぶん!」
「たぶん!?そのたぶん、信用したことないんだけど!」
泡に埋もれて飛び出してきたのはドラコ。いや、泡ドラゴンになり果てた姿。
「おい!羽が泡だらけで飛べねぇぞ!これ酒屋じゃなくて泡風呂じゃねぇか!」と文句を言いつつ、床でツルッと滑って転ぶ。ついでに私も滑る。痛い。
そんな中、ジーナの冷静な声が響く。
「リリィ、この泡、ただの泡じゃないわよ。」
カウンターの端から突き出されたグラスを見ると、泡に触れた部分が青白く光っているじゃない。え、何これ。私、変な実験に巻き込まれた?
「え、ちょっと待って、これエーテル発酵が暴走してるんじゃ――!」
アストリアの言葉に、一瞬の沈黙。そして全員が同時に叫んだ。
「暴走!?それ爆発するやつじゃない!?」
「いや、たぶん爆発はしないけど…泡が止まらない!」
もういい。私は覚悟を決めてアストリアに叫んだ。「装置、止めて!今すぐ!」
なんとか操作に成功し、泡は徐々に収まっていく。店内に視界が戻った頃には、みんな青くなってた。いや、物理的に。
「リリィ、鏡見てみなよ。」フォルクの声に恐る恐る鏡を見ると、青い顔の私がそこにいた。しかも模様つき。もう勘弁してよ!
けど、このビールだけは別格だった。一口飲むと、爽やかなコクと麦の甘さ、微かなエーテルの香りが広がる。「おいしい…悔しいけど!」
「ほら、やっぱり私の発明は最高でしょ!」とアストリアが胸を張る。
「いやいや、結果オーライすぎるから!」私は思わず頭を抱えたけど、この味を捨てるなんて選択肢はない。
こうして、バブルブリュワーは酔いどれ小屋の新たな目玉になった。ただし、「青くなる可能性あり」という注意書きと一緒にね。
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