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酔いどれエルフと酒の歌  作者: チョコレ
第二杯 酔いどれ小屋、開店!
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第8話 旅立ち前にはお酒!

 昼下がりの仮店舗「酔いどれ小屋」。穏やかな日差しが差し込む中、私は魔法樽の調整に没頭していた。フィリアは隅でグラスを磨いているものの、そのぎこちなさといったら目も当てられない。ちらちらと私を見ながら、ため息混じりに言った。


「お姉ちゃん、もう少し真面目にやったほうがいいんじゃ…」


「これでも十分真面目よ! 見なさい、このピカピカのグラス!」

 私は得意げにグラスを掲げたが、フィリアは首をかしげるだけだった。


 その時――扉のベルがチリンと鳴り響く。


「いらっしゃいませー!」

 勢いよく声をかけた私が目にしたのは――。


「リーヴァン族長!?」

 フィリアが驚きの声を上げる。


 威厳たっぷりの佇まいで立つのは、エルフの里の族長リーヴァン。長い白髪を束ねた姿は相変わらずだが、今日は特に眉間のしわが深い。


「お前たち、里に帰れ。」

 低い声とともに投げかけられた言葉に、店内の空気が一気に重くなる。


「急に来て何よ。こっちは忙しいんだから。」

 私は腕を組んで族長を睨む。


 族長はため息混じりに言葉を続けた。

「フィリア、お前は召喚魔法の失敗で一月もの間姿を消し、里に大きな不安をもたらした。リリィ、お前は酒に溺れている…お前たち姉妹は、里の誇りを泥で汚す気か?」


「酒に溺れてるなんて失礼ね! 私はお酒を作って、飲んで、みんなを笑顔にしてるだけ!」

 胸を張って言い返す私に、族長はさらに深い溜息をついた。


「やりたいことだと? 年に一度の封印の儀が近いのだぞ。それでも戻らないというのか?」


「封印の儀なんて誰でもできるじゃない!」

 思わず声を荒げた瞬間、フィリアが慌てて私の袖を引っ張る。


「お姉ちゃん、そんなこと言っちゃダメ…!」


 族長は静かに椅子に腰を下ろし、疲れたように首を振った。

「お前たちの自由を尊重したつもりだったが、これ以上放置しておくわけにはいかん。」


「とりあえず、族長、飲む?」

 私はカウンター越しにグラスを差し出す。


「ふん…飲むとも。」

 族長がグラスを手にすると、一気に飲み干した。


「これは…旨いな。」

 まさかの感想に、私はほっと胸をなでおろす。


 その後、族長は酒を片手に長老たちへの愚痴を語り出す。

「長老どもは保守的すぎる。封印が重要だと…世界樹こそが全てだと…それを理由に新しい可能性を拒むとは…。」


 相変わらず愚痴っぽいのね。


 突然、族長の厳しい声がフィリアに向けられた。


「だが、フィリア。お前だけは里に戻るべきだ。」


「えっ?」

 フィリアが怯えたように族長を見上げる。その小さな声には、いつもの自信のなさが滲み出ていた。


 族長は椅子に深く腰を下ろし、威厳たっぷりに語り始めた。

「東の大陸では国同士が開戦した。この西の大陸も、いつ戦火に包まれるやもしれん。召喚魔法を磨き、防衛の力を備えなければならない。」


 その言葉に、フィリアは深く俯き、しばらく考え込む。そして、おずおずと私に目を向け、小さな声で言った。


「確かに…私が里を抜けることで、里に危険が迫るなら…。い、一度、戻ります。私が研究している召喚魔法の中で、防衛に使えるものを里のみんなにもきちんと引き継いで…それで、またお姉ちゃんのお手伝いをしても問題ないように…!」


 彼女の言葉を聞き、私は満足げに微笑みながら肩をポンと叩いた。


「いいんじゃない? あんたが納得してるなら、それで十分よ。」


 フィリアの顔にはまだ不安が残っているけれど、その中に少しだけ覚悟の色が混じっているのが見て取れる。


「じゃあ、ちょっと早いけど乾杯しときましょ! 新たな門出ってことで!」

 私はカウンターに戻り、特製のお酒を用意し始めた。


 今回の一杯は、春の記憶を呼び起こす「ブロッサムリキュール」。ピンクの花びらを漬け込んで作ったこのリキュールは、淡い桜色の輝きを放ち、口に含むとふんわりと花の香りが広がる。


「はい、これ! 花を飲むなんてロマンチックでしょ?」

 私は族長とフィリアにグラスを差し出し、胸を張る。


 族長はグラスを受け取り、一口飲むと眉を上げた。

「これは…悪くない。こういう心意気を里にも持ち帰るべきだな。」


 そりゃそうでしょ、うちの店の自信作だもの! 心の中でガッツポーズをしつつ、フィリアの反応を伺うと――彼女も満面の笑顔でグラスを掲げている。


「お姉ちゃん、ありがとう! これ、すっごく美味しい!」


 その笑顔を見ると、少しだけ寂しさが和らいだ気がした。


 フィリアが帰り支度を整え、店の扉を出る前に振り返る。


「お姉ちゃん、また来るね! その時は、もっと美味しいお酒を作って待ってて!」


 私は手を振り返しながら笑った。

「もちろん! またお店も手伝ってね!」


 族長は少し満足げな顔をしつつも、店を出る際に小さく呟いた。

「では、また里で会おう。リリィ…。」


 扉が閉まると、店内に静けさが戻る。私は魔法樽に向かいながら心の中で呟いた。


「次にフィリアが来るときは、もっと凄いお酒で驚かせてやるんだから! 族長は…まぁ、来なくてもいいかな。」


 こうして、「酔いどれ小屋」での姉妹のドタバタ劇は一旦幕を下ろし、フィリアの新たな旅立ちとともに店には穏やかな日常が戻ったのだった――ただし、次の騒動が来るまでのつかの間だけ。

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@chocola_carlyle

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