第7話 フィリア、召喚!
朝の柔らかな日差しが「酔いどれ小屋」のカウンターを照らす中、私は魔法樽の調整に没頭していた。蒸気が立ち込める中、ふと顔を上げると、雑巾を絞りながら皿を拭くフィリアのぎこちない姿が目に入る。
「なあリリィ。」
フォルクがカウンターに腰掛け、腕を組んで呆れたように首を振る。
「なんでお前の妹って、こんなにお前と違うんだ?」
「どこが違うのよ!」
私はムッとして振り返る。
「だって見てみろよ。お前は爆発してもケロッとしてるのに、あいつは皿一枚拭くだけで手が震えてるぞ。」
「それがどうしたっていうの!」
私が腕を組みながら睨みつけると、カウンターの端で尻尾を揺らしていたドラコが口を挟む。
「俺はリリィ派だぜ。なんだかんだで酒もうめえし、爆発の後始末も見慣れたもんだ。」
「それが当たり前でしょ!」
私は胸を張ったが、フィリアはおどおどと肩をすぼめながら小さく呟いた。
「そ、そんなに違うかな……」
ドラコがにやりと笑いながら煽る。
「でさ、フィリア、召喚魔法が得意なんだろ? ちょっと見せてくれよ。」
「えっ、こ、ここで!?」
フィリアの顔が真っ赤になる。
「大丈夫だって、爆発なんて日常茶飯事なんだから。」
ドラコが軽く言い放つと、私は頭を抱えた。
「ドラコ、あんたねぇ…フィリア、やるならちゃんと安全にやりなさいよ!」
「で、では…この酒場に役立ちそうな素材を召喚してみます!」
フィリアが震える手で魔法陣を描き始めた。
詠唱が響くと同時に、店内に緊張感が漂う。そして光が弾けた瞬間――
ボヨン!
そこに現れたのは、丸々とした緑のサボテン。だが普通の植物じゃない。小さな足をバタバタさせ、カウンターの上を堂々と歩き回る「ランブルサボテン」だった!
「きゃあ! 動いてる!?」
フィリアの悲鳴が響く中、サボテンは次々とグラスやボトルを蹴散らして暴れ回る。
「おいおい、これ大丈夫かよ!」
フォルクが驚きの声を上げる。
「捕まえて! このままじゃ店がめちゃくちゃになるわよ!」
私は叫びながらドラコに目を向けた。
「任せとけ!」
ドラコが立ち上がり、尻尾を振りながら大きく息を吸い込む。
「口から泡爆弾!」
勢いよく吹き出された泡がサボテンを包み込み、ぷくぷくと膨らんだ泡の中でサボテンの動きが止まった。
「よし、動きが止まったわね!」
私は即座に調理道具を掴み、カウンターに戻った。
「これ、調理しないとただの厄介者だけど……ちゃんと使えれば最高の食材になるわ!」
棘を一本ずつ丁寧に取り除き、中のジューシーな果肉を取り出すと、ほんのり甘く爽やかな香りが立ち上る。
「これはいける!」
果肉を薄くスライスし、特製ハーブドレッシングで和える。さらにローストしたエルムナッツをトッピングし、仕上げにレモンバームの葉を添えて完成。
「はい、今夜限りのスペシャルメニュー、『ランブルサボテンサラダ』よ!」
夜になると、常連客たちが物珍しさに次々とを注文する。
「これ、なんだかシャキシャキしてて美味しい!」
「酸味と甘みが絶妙だな! 酒が進む!」
フォルクも一口食べて感動したように言った。
「おい、これめちゃくちゃうまいじゃねえか! サボテンがこんなに美味いなんて…!」
「でしょ? でも、この召喚術式はフィリアしか使えないから、今夜限りなのよ。」
私が胸を張ると、ドラコが得意げに尻尾を振った。
「まあ、俺の泡がなきゃ調理もできなかったけどな。」
「それはどうだかね!」
私は笑いながらグラスを拭き始める。
夜が更け、店が落ち着くと、フィリアがぽつりと言った。
「お姉ちゃん…私の召喚魔法、役に立ってよかった。」
「そりゃそうよ! あんたもやればできるんだから、もっと自信持ちなさい!」
私は彼女の肩を叩くと、フィリアは少しだけ笑みを浮かべた。
こうして「ランブルサボテンサラダ」は、「酔いどれ小屋」の伝説として語り継がれることになった――ただし、一夜限りのスペシャルメニューとして。
─
「店舗消滅に伴い、魔法樽を手放すかと思いきや…まさか、仮店舗で営業を再開するとはな…」
「それだけではない。召喚術師まで現れたか…。魔法樽の奪還を阻む厄介な障害になりかねん」
「今回は力ずくではなく、別の手を講じる必要があるな…」
沈黙の中、影が揺れる。
「我々が直接動けば、やつらも相応の対策を講じるだろう。だが、正面からではなく、まったく異なる方向から攻めればどうだ?」
「…ふむ。我々の幹部も関わりを持つ"組織"に手を下してもらう、というわけか」
「奴らは元々、酔いどれ小屋を目の敵にしていたと聞く。利用するには好機だろう…」
低く響く声とともに、闇の中で影が蠢き始める。計画の歯車が、静かに動き出した。
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