第5話 冒険者時代の遺産があってこそ!
広い空の下、仮店舗「酔いどれ小屋」は今日も営業中! 移動販売から新たに構えたこの場所で、まだ始まったばかりの店を盛り上げる日々。次々と訪れるお客さんに、新作のお酒やおつまみを楽しんでもらうのが毎日の喜びだ。
そんな中、店の扉が勢いよく開いた。
「おい、リリィ! 調子はどうだ?」
低く響く声とともに入ってきたのは、商人のロイ・ヴァンデル。冒険者時代に世話になり、今回の店舗開業にお金を貸してくれた恩人だ。
「あらロイさん! 久しぶりね!」
私はカウンター越しに手を振り、満面の笑みで迎える。
「ふん、お前が店を始めたと聞いてな。どんな具合か様子を見に来たんだ。」
どっしりと席に腰を下ろしながら、ロイは店内を見回す。その視線はどこか温かい。
「順調よ! まだ始まったばかりだけど、思った以上にお客さんが来てくれてるの。」
私は胸を張って答えたが、店の片隅で荷物を整理していたフォルクが苦笑いを浮かべる。
「まだまだスタートしたばかりだからな。浮かれるのは早いぞ。」
「うるさいわね、フォルク! せっかくロイさんが見に来てくれたんだから、ちゃんといいところ見せなきゃ!」
私は気を取り直し、準備していた新作のお酒を持ち出した。
今回の新作は「クラッシュライト・エール」。
氷を浮かべた透明なエールに、ほんのりと雷属性のマナを込めた特製の飲み物だ。グラスを手に取ると微かな静電気が指先に触れる感覚があり、一口飲むとシュワシュワとした刺激が口いっぱいに広がる。まるで雷が駆け抜けるような爽快感を持つ一杯だ。
「これよ! 今日の目玉、クラッシュライト・エール! ただ冷たいだけじゃなくて、体がピリッとする感覚がクセになるの!」
グラスをロイの前に差し出すと、彼は興味深げに持ち上げ、口元に運ぶ。
一口飲んだロイの目が一瞬驚いたように見開かれる。
「ほう…これは面白いな。冷たさと刺激が同時に来るとはな。」
「でしょ! ただ飲むだけじゃつまらないもの。こういう遊び心が大事なの!」
私は自信満々に微笑む。
厨房から聞こえたガサゴソという音に、私は嫌な予感を抱きながら顔を上げた。
「あれ、ドラコ? 何してんの?」
覗き込むと、そこには目を輝かせながら、試作中のおつまみ――「スパークチップ」を頬張るドラコの姿があった。
「あ、それ! まだ試作品だって言ったでしょ!」
私は叫びながら駆け寄るが、すでに手遅れ。ドラコがふっと息をつく。いや、正確には――口から雷撃を放った。
「ぎゃあああああ!」
バチバチッ!厨房内が眩しい閃光で満たされ、鍋やスプーンが勢いよく飛び散る。電撃が鉄製の棚を走り、そこからさらに冷蔵庫へ、そして床へと次々に広がった。まるで雷雨の中心にいるかのようなカオス状態だ。
「おいドラコ!何してんだよ!」
フォルクが駆け込むが、ドラコは口から雷を吐きながら厨房を駆け回る。
「俺だって好きでこんなことになったんじゃねぇ! なんだよこのおつまみ!」
「だからまだ完成してないって言ったでしょ!」
私が叫びながらドラコを追いかけるが、雷撃が店内のあちこちに当たり、照明が一瞬消える。
「おいリリィ! 早くなんとかしろ!」
フォルクが声を上げる中、ロイはグラスを片手に笑い声を上げた。
「ははは、やっぱりお前の店はこうでなくちゃな!」
「こんな混乱を期待してるわけじゃないんだから!」
私は頭を抱えながら、なんとかドラコを落ち着かせるために水のマナを込めたバケツを用意した。
ようやく雷撃がおさまり、店内が静かになった頃、ロイは立ち上がり、満足そうに言った。
「やっぱりお前の店には面白いものがあるな。」
「そ、そういうものなのかしら…。」
私はへとへとになりながらも、なんだか誇らしい気分になった。
ロイはグラスを持ち上げ、静かに飲み干すとこう言い残して店を出て行った。
「酔いどれ小屋の未来を楽しみにしてるぞ。また来るからな。」
その背中を見送りながら、フォルクが呆れたように言った。
「ははっ、まあ、こういう騒ぎもお前の店の名物ってことか。ロイさんから資金を引っ張れたのも、結局、お前の冒険者時代の縁ってやつだな。」
「もちろんよ! 私のお店なんだから!」
胸を張ったものの、ふと視線をやれば――まだ煙を吐きながらむせているドラコの姿。私はそっとため息をついた。…まったく、うちの店はこれだから、目が離せないのよね。
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