第5話 ジーナの試飲と無茶ぶり!
「リリィ、また何かやらかしたんでしょ?」
扉が開くなり、茶髪のポニーテールを揺らしたジーナ・ロスティアがずかずかと入ってきた。眼鏡越しの冷たい視線が、ズバリ私に突き刺さる。
「やらかしたって何よその言い方! 今回は完璧な新作酒ができたのよ!」
胸を張って反論するものの、カウンターの隅でくつろいでいるドラコをチラリと見る。
「まあ、ドラコがちょっと魔法樽を倒したせいで、泡が少し溢れただけで――」
「その『ちょっと』が、いつも大事になるのよ!」
ジーナはため息をつきつつ椅子に腰を下ろし、ジト目で私を睨む。
「で、その新作酒っていうのは?」
「待ってました!」
私は棚の奥から、宝石みたいに輝く赤い液体が入ったボトルを取り出した。
「これが最新作、『ルビー・グリーム』!」
ボトルの中で液体が陽光を浴び、まるで燃えるルビーのようにきらめく。慎重にグラスに注ぐと、甘く濃厚な香りがふわりと立ち上がった。
ジーナはグラスを見つめ、一瞬だけ目を輝かせたものの、すぐに冷静な顔に戻った。
「ふむ…まずは香りから。」
鼻を近づけてゆっくり香りを吸い込むその様子は、まるで学術研究みたい。
「ベリー系の甘さにシナモンとナツメグのスパイシーさが絡み合ってる。まるで森の奥で見つけた秘密の果実ね…意外と悪くないわ。」
「でしょ? 飲んでみて!」
ドヤ顔で促すと、ジーナは一瞬だけ疑念を浮かべながらもグラスを口に運んだ。
飲んだ瞬間、彼女の眉がピクリと動いた。驚きと感動の入り混じった微妙な表情に、私は思わずガッツポーズをしたくなる。
「甘さが最初に舌を包み込んで、後からスパイスがじわじわ追いかけてくる…そして喉を通った瞬間、ほのかな暖かさが全身に広がる。この複雑さ…リリィ、これは――」
「最高でしょ!」
興奮を抑えきれず声を上げる私に、ジーナは冷静な顔で言い返した。
「ただし…アルコールが強すぎるわ。普通の人間なら一杯で倒れる。」
「だからいいのよ! 飲んだ瞬間が勝負なんだから!」
胸を張る私に、ジーナはあきれ顔でため息をつき、メモ帳を取り出す。
「売り物にするなら、もう少しアルコールを抑えた方がいい。それに、このベリー…どうせまた魔法の森から勝手に採ってきたんでしょ?」
「ちょっとくらい大丈夫よ! 魔法の森も喜んでくれてるって!」
明るく答える私に、ジーナは深々と眉をひそめる。
そのやり取りを聞いていたフォルクが、ニヤニヤしながら口を挟んだ。
「おいジーナ、そんな文句言ってるけど、結局リリィの酒が気に入ってんだろ?」
ジーナは一瞬言葉を詰まらせ、視線を外す。そして無言で再びグラスを口に運んだ。
カウンターの隅で黙っていたドラコが、尻尾を揺らしながら口を開く。
「おいリリィ、その『ルビー・グリーム』、俺にも一杯よこせよ。」
「ダメよ! 試飲用なんだから!」
「ケチくさいこと言うなって!」
ドラコがそう言ってカウンターに飛び上がると、尻尾がグラスにぶつかった。
バシャッ!
赤い液体が見事に店内に飛び散る。
「ああっ! 新作酒が!」
私は叫び、ジーナは慌ててメモ帳を引っ込めた。
「全く、どうしてあんたたちは毎回こうなるのよ!」
ジーナが怒鳴る中、ドラコは悪びれる様子もなく尻尾を揺らして笑う。
「いや、俺の味見でさらに改良できるだろ? 感謝してほしいくらいだぜ。」
「感謝どころか、迷惑なの!」
どうにか片付け終わると、ジーナは改めてグラスを手に取り、残り少ない『ルビー・グリーム』を飲み干した。
「リリィ、この酒、本当にポテンシャルはあるわ。でも…もう少しだけ工夫が必要ね。」
「でしょ? やっぱりわかると思ってた!」
笑顔で応じる私に、ジーナは苦笑いを浮かべながら立ち上がった。
「本当に手がかかるわね、あなたは。でも…その無茶な夢、嫌いじゃないわ。」
そう言い残して店を出ていくジーナの背中を見送り、私は手元のボトルを見つめる。
「ふぅ、何とか納得してもらえたみたいね。」
そうつぶやきながら、私は次の新作の構想に頭を巡らせ始めた――次こそ、完璧な一杯を!
─
その影で、またしても黒いフードの男が店の外から店内を見つめていた。
「次は魔法樽を手に入れる番だ…。」
酔いどれ亭の夜に、不穏な影が迫る――。
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