第2話 正体は気にしない!
「リリィ、あんた、本当に平気なの?」
扉のベルがチリンと鳴ると同時に現れたのは、茶髪をきっちりとポニーテールにまとめたジーナ。白いブラウスと赤いスカートのかっちりした服装で、腕を組んだまま冷ややかな視線を向けてくる。
「なによ、その顔。ちゃんとやってるわよ。」
私は咄嗟にカウンターの雑巾を隠す。さっきグラスを割って大慌てで掃除してたことなんて、絶対バレたくない!
「ちゃんとやってる、ねぇ。」
ジーナは小さく溜息をつくと、カウンターに近づき、無言で魔法樽に目を向ける。その表情は妙に真剣だ。
「あの魔法樽、そういえばどうなったの?」
「それがね、あれだけ爆発したのに壊れてないのよ!」
私は樽をポンポンと叩いてみせる。驚くほど無傷。
ジーナは眼鏡をクイッと押し上げると、樽をじっと観察し始めた。
「とんでもないわね…普通の樽なら、あの大爆発で跡形もなく吹き飛んでるはずよ。」
「魔法の樽だからじゃない?」
私は軽い調子で答えながら肩をすくめる。
「それにしても異常よ。あれだけマナを放出しても、樽そのものがびくともしないなんて。これ、本当にお酒を造る道具なの?」
「ええと、冒険中に見つけたものでね。樽っぽかったから、使ってるだけ!」
適当すぎる自分の説明に、ジーナの呆れ顔がさらに深くなる。
「…適当ねぇ。」
彼女は深いため息をつきながら樽の表面を撫でる。
「だって、美味しいお酒ができるんだからいいじゃない!」
私は胸を張って言うが、ジーナの冷静な目が突き刺さるような気がして、少し不安になる。
「もしかすると、この樽ってとんでもないアイテムなんじゃないの?」
ジーナがぽつりと呟く。
「何がどうとんでもないのよ?」
「例えば、あの黒い連中が狙ってた理由……魔法樽の本当の使い方を知ってたりするのかもしれないわ。」
彼女の言葉に、背筋が一瞬ゾクッとする。でも、そんなの気にしてたらやってられない。私はわざと明るく笑い飛ばした。
「いいじゃない、それでも! お酒造りに使うのがベストよ!」
ジーナは眉をひそめつつも、どこか呆れたように微笑む。
「まったく、あんたってそういうところだけポジティブよね。」
「でしょ?」
私はカウンター越しに彼女を見て、話題を変えるべく問いかけた。
「それで今日は何の用なの? 商談? それともお酒を楽しみに来たの?」
ジーナは椅子に腰を下ろしながら答える。
「どちらかと言えば、様子を見に来たのよ。あんたの無茶っぷりが気になってね。」
「じゃあ、せっかくだから新作を飲んでみてよ!」
私は得意げにグラスを取り、琥珀色に輝く『ハーブサングリア』を注いで彼女の前に差し出した。それは魔法樽でじっくり熟成させた果実酒に、新鮮なハーブを加えた特製の一品。口に含めばフルーティーな甘みが広がり、後味には爽やかなハーブの香りが残る仕上がりだ。
ジーナが一口飲むと、思わず目を見開いた。
「…悔しいけど、美味しいわね。」
「でしょ?」
私は得意げに笑う。けれど、ジーナの真剣な表情が戻る。
「それでも、リリィ。あの樽、本当に気をつけたほうがいいわよ。」
彼女の言葉がどこか引っかかりながらも、私は新しいお酒造りのアイデアが浮かんでくるのを感じていた。
――樽が何者であれ、美味しいお酒ができる限り、私はこの店で作り続ける。そう、これが私の「冒険」だから!
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