第46話 魔法樽、大爆発!
陽光が差し込み、酔いどれ亭の店内はほんのり暖かい光に包まれていた。私は魔法樽の前で腕を組みながら、目の前のグラスをじっと見つめる。
「ヴェールサンダーショット」 。その名に恥じない雷の輝きが泡の中で瞬くたび、胸の高鳴りが止まらない。
「よし、できた! 今回の新作、最高ね!」
勢いよくグラスを掲げた私の声に、カウンターでゴロゴロしていたドラコが尻尾を揺らした。
「おいおい、また派手なの作ったな?」
ドラコが面白そうにグラスを覗き込む。
「派手でいいのよ! 飲むと稲妻みたいな刺激が広がって、目が覚める感覚なの!」
得意げに説明すると、フォルクが笑いながら手を伸ばした。
「そんなにすごいのか? じゃあ試してみるぞ…っと、うおっ!」
一口飲んだ瞬間、フォルクの目が見開かれる。
「こいつは…本当に雷に打たれたみたいだ! 喉を通る瞬間の刺激がクセになるな!」
ドラコがニヤリと笑い、器用に前足でグラスを手に取る。
「俺様の舌を満足させる酒なんだろうな? …っと、こいつは!」
一気に飲み干したドラコの目が細まり、尻尾が大きく揺れる。
「ピリピリするのに、最後に甘みが追いかけてくる…なんだこれ、クセになるぜ!」
「でしょ? この雷みたいな刺激と絶妙な甘さ、最高でしょ!」
私は自慢げに答えると、二人は満足そうにグラスを掲げた。
「リリィ、お前の酒作りの腕、確かに上がってるな。」
フォルクがにやりと笑い、ドラコも同意するように尻尾を振る。
「ただ、最近妙な奴らが店に出入りしてるのに、のんきだよな。」
その言葉に一瞬だけ心に引っかかりを覚えたけど、そんなの気にしていられない。
「気にしない気にしない! 美味しい酒を作ることが一番大事!」
笑顔で魔法樽にマナを注ぎ込む。この樽さえあれば、どんな問題も解決できる気がする。
その時だった。扉が軋む音と共に店内に影が差し込む。
見覚えのある黒いフードの男。また現れた――あの男だ。
「またあんた?」
呆れた声が自然と出た。まったく、何度しつこく来るつもりなのよ。
「魔法樽を渡してもらう。」
低く響く声が、店内の喧騒をかき消した。視線は私ではなく、カウンターの奥に鎮座する魔法樽へと向けられている。
「魔法樽は私の命みたいなもんよ! 誰にも渡すわけないでしょ!」
睨みつけながら叫ぶが、男は微動だにせず、静かに杖を掲げた。
「やめなさいってば!」
私の声とほぼ同時に、樽へ向かって妖しい光が放たれる。
「リリィ、こいつ、樽に何か仕掛けたぞ!」
ドラコが跳び上がり、焦った声を上げる。樽が不気味なうなりを発しながら震え出し、空気がビリビリと焼けるように歪み始めた。
「ちょっと、何したのよ!」
慌てて樽を叩くが、手のひらに伝わる熱と振動は増すばかり。光が樽全体を包み込み、脈打つように脈動しながら、さらに強く輝き始めた。
「フォルク、そいつを止めて!」
私の叫びに、フォルクが即座に剣を抜き、男に向かって突進する。しかし男はスッと身を翻し、素早く窓へ飛び込み、そのまま夜の闇へと消えていった。
「リリィ、これどうするの!?」
ジーナが叫ぶ。私だって知りたい。
「きっと大丈夫……落ち着いてくれるはず……多分!」
自分に言い聞かせるように呟くが、樽の暴走は止まるどころか、ますます激しくなっていく。
「これ、マジでヤバいわよ! リリィ!! 酒は諦めなさい!!!」
ジーナが私の腕を乱暴に引っ張る。抵抗する間もなく、店の外へと引きずり出された。フォルクとドラコも勢いよく飛び出し、客たちも悲鳴を上げながら四方へ散る。
そして――
ドォォォォォォン!!!!!!!!
閃光が炸裂し、凄まじい衝撃波が街中を揺るがす。爆風が地を這う獣のように店を飲み込み、酔いどれ亭は一瞬で瓦礫と化した。屋根も壁も、カウンターも椅子も、すべてが吹き飛び、泡と魔力の奔流が夜空へ向かって暴れ狂う。
耳鳴りの残る静寂の中、舞い上がる黒煙を眺めるしかなかった。
酔いどれ亭は、完全に消えていた。
煙がもくもくと立ち上り、燃え尽きた木片がゆらゆらと宙を舞う。辺りには砕け散った酒瓶の破片、地面に転がる泡の名残が残るのみ。
「……」
誰もが言葉を失った。
ついさっきまで笑い声で溢れていた店は、跡形もなく消え去っていた。
「こ、これ…どこから手をつけたら…」
ジーナがかすれた声で呟く。
「つーか、これ…手をつける以前に、何も残ってねぇぞ…」
ドラコは頭を抱えたまま呆然と立ち尽くし、フォルクは何か言いかけたものの、結局、口を閉じて肩をすくめた。苦笑いすら浮かばない。
私はただ、燃え尽きた瓦礫を見つめる。
「…あははは…」
笑うしかなかった。
黒いフードの男が何者なのか、何を狙っていたのか――そんなこと、考えたところで答えが出るわけじゃない。怒りをぶつけたところで、店が元通りになるわけでもない。
でも、私は分かってる。私にあるのは、お酒への愛。そして、みんなの笑顔。それが見たくて、酔いどれ亭を開いたんだ。
なら、やることは一つ――
「…まぁ、また、一からやるしかないわね!!!」
拳をぎゅっと握りしめ、力強く叫ぶ。
「次はもっとすごい店にするんだから!!!」
─
その夜、路地裏の奥。闇に紛れる黒いフードの男が、静かに口を開いた。
「…あれでよろしかったのでしょうか?」
控えていた部下が低く問いかける。
フードの男は、ゆっくりと唇を歪めた。
「あれは、秘められた力の一端を解放し、あの酒場を吹き飛ばしたに過ぎん。」
「では、魔法樽自体は…?」
「…あの瓦礫の中で、何事もなかったように鎮座していることだろう。」
闇の中に、くぐもった笑いが広がった。
「承知しました。では次の手は?」
「あのエルフには気になる点がいくつかある。今はまだ計画の駒として動かせる。」
フードの男の声が、さらに低く、冷たく響く。
「しばらくは泳がせろ。そして、次の段階に進める。」
「はっ!」
影たちは再び策略を巡らせ、音もなく闇の中へと溶け込んでいった。
─
酔いどれエルフと酒の歌
『第一杯 酔いどれ亭、大騒ぎ!』これにて閉幕よ!
でもって次なる舞台は――「酔いどれ小屋」!
こんなことで私がへこたれると思った? ありえないわね!
酒も店も吹っ飛んだ? ならまた作ればいいだけのこと!
さぁ、次の物語が始まるわよ――みんな、ついてきなさい!
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