第45話 ドラコ、最大のピンチ!
「リリィ、俺の分のつまみがないぞ!」
カウンターの上で尻尾を揺らしながら、ドラコがふてくされた顔で抗議してくる。
「さっき『竜巻芋のスパイラルチップス』を出したでしょ。それに、つまみを食べるのはお客さんが先!」
私はグラスを拭きながら言い放つ。毎回これだ。看板ドラゴンとしての自覚を持ちなさいっての。
竜巻芋のスパイラルチップス、それは風属性のマナを含んだ特殊なジャガイモを螺旋状にカットし、一本丸ごと揚げた酒場の看板メニュー。揚げたては黄金色に輝き、パリッとした外側とホクホクの内側が絶妙なバランス。特製スパイスをたっぷり振りかけることで、ピリッとした辛さとほのかな甘みが口いっぱいに広がる。
「ケチケチすんなよ。俺だって看板ドラゴンとして働いてんだから、少しくらい特権があってもいいだろ?」
ドラコは尻尾で軽くカウンターを叩きながら、小さな口で泡をふっと吹く。
「特権なら、お客さんをもっと呼び込むとかしてから言いなさいよ!」
私が睨み返すと、ドラコは鼻を鳴らし、ふてくされた顔をして背を向けた。
そんな時――扉がギィッと音を立てて開いた。一人の男がゆっくりと入ってくる。黒いフードを深く被り、周囲を圧するような不穏な雰囲気をまとっている。
「おいリリィ、あいつ…見るからに怪しいぜ。」
ドラコがしっぽを止め、小声で警戒の色を滲ませる。
「ここが噂の酔いどれ亭か。」
低く響く声。カウンターに近づく男の目は冷たく光り、どう見ても客じゃなさそうだ。嫌な予感しかしない。
「そうよ! 私が店主のリリィよ。お酒を飲みに来たなら、最高の一杯を出してあげるわ!」
私は笑顔を貼り付けて迎えたが、男は私をじっと見つめるだけで、まるで話を聞いていないようだった。
「いや、酒を飲みに来たわけじゃない。」
男はカウンターに手を置き、低い声で続ける。
「魔法樽を渡してもらおうか。」
「はあ? 魔法樽?」
即座に反発心が湧き上がる。
「あれは私が冒険で手に入れた貴重なものよ! この店に欠かせないアイテムなんだから! 大金積まれたって渡さないわ!」
男の目が鋭く光り、杖へと手を伸ばした。
「ならば、力ずくでいただく。」
杖を振り上げた瞬間、青白い刃が空気を切り裂いてカウンターに向かって飛んでくる。
「ちょっと! 店を壊す気!?聖光壁!」
慌てて光の壁を展開し、何とか衝撃を防いだが、カウンターがきしむ音に胸が痛む。
「リリィ、下がれ!」
フォルクが剣を抜き突進しようとするが、男は杖を一振りしてフォルクの足元を弾く。
その時、カウンターの上にいたドラコがふわっと飛び上がった。
「おいリリィ、ここは俺に任せろ。」
「ちょっと、あんた何する気?」
「看板ドラゴンとして、この店を守るんだよ!」
小さな体で胸を張るドラコの姿に、不安と期待が入り混じる。
「ふん、小さなドラゴンが相手か。」
男が冷笑を浮かべた瞬間、ドラコが勢いよく口から泡を吹き出した。
「くらえ、特製泡爆弾だ!」
吹き出された泡が男の杖に絡みつき、マナの流れを阻害する。その瞬間、杖から放たれる光が弱まり、魔法が鈍る。
「へっ、どうだ! これが看板ドラゴンの実力だぜ!」
ドラコが得意げにしっぽを揺らす。だが、その余裕もつかの間だった。
男が杖を振り払い泡を弾き飛ばすと、再び呪文を唱える。
「危ない!」
反射的に防御魔法を展開したが、男の魔法の衝撃波に巻き込まれたドラコが宙を舞い、壁に叩きつけられる。
「ドラコ!」
駆け寄ると、彼は息を荒げながらも、薄い笑みを浮かべて一言。
「ふっ…ドラゴンがこんな程度でへこたれると思うなよ…。」
店内にいた冒険者たちが一斉に立ち上がった。
「酔いどれ亭の平和を乱す奴は許さねえ!」
怒号とともに、常連たちが男に突進する。さすがに多勢に無勢。男は舌打ちを残し、煙幕を放って逃げ出した。
「ふう…なんとかなったわね。」
肩で息を整えながら、私はドラコに手を差し伸べる。彼は少しよろめきながらも、自分の力で立ち上がった。
「な? 俺の泡のおかげだろ?」
ニヤリと笑うその顔は、いつもの自信満々なドラコそのものだった。
「はいはい、看板ドラゴン様のおかげね。」
ため息をつきつつも、思わず笑みがこぼれる。確かに、あの泡がなければどうなっていたことか――。
─
一方、路地裏では、逃げ出した男が黒いフードの仲間と話していた。
「やはり魔法樽を守る者どもは手強い…。」
男は息を切らしながら続ける。
「計画を進めるぞ。」
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