第43話 ハンター VS ドラコ!?
「この酒…魔法樽を使っているな!!」
店内が一瞬静まり返る。何事かと顔を上げると、男が劇的なポーズで立ち上がり、帽子の羽をビシッと指さしながら叫んだ。
「…は?」
カウンター越しに私は呆然とする。なに、この人!?派手な羽飾りの帽子をかぶった男がキラリと目を光らせる。何を言われたのか一瞬理解できなかったが、男は興奮気味にまくし立てた。
「間違いない!! どんな酒でも至高の味に変えてしまう伝説の魔法樽!! それがこの店にある!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
思わずカウンターを拭く手を止める。嫌な予感しかしない。絶対に面倒くさい。男は帽子を軽く揺らしながら、堂々と名乗りを上げた。
「我が名はヴィクトール・ド・ランサード!! 世界を駆けるトレジャーハンター!! その魔法樽…俺がいただく!!」
「はぁぁ!? いやいやいや、何でそうなるのよ!!?」
思わずカウンターを叩いてしまう。
「財宝は求める者のもの!! 俺は見つけた!! だから俺のもの!!!」
「その理屈、めちゃくちゃすぎるでしょ!? ていうか、酒の樽を“財宝”扱いするの、アンタくらいじゃない!?」
店の客たちは、すっかり見物モードに突入。フォルクなんてジョッキを傾けながら、「おもしれぇ展開になってきたな」とニヤついている。
そして、ヴィクトールが店の奥に目をやり、ついに動き出した。
「そこにあるな!? あの樽だな!!!」
「はいストップ!!!」
私は即座にカウンターから身を乗り出した――が、その瞬間、別の動きがあった。
シュバッ!!!!
小さな影が飛び、ヴィクトールの帽子がふわっと浮いたかと思うと、羽飾りがスパッと裂けて宙を舞う。
「…おいおい、ここは俺の縄張りだぜ?」
カウンターの上で、ドラコが翼を広げ、瞳をギラリと光らせる。ヴィクトールがギョッとして一歩下がる。
「な、なんだこの威圧感…!?」
「勝手に店のもんに手を出す奴には、俺の爪でいい模様を刻んでやるぜ?」
「お、おい! そんな目つきで睨むな!!!」
「へえ? 店の樽を盗るのは平気なくせに、睨まれるのは怖いんだ?」
私は腕を組んでニヤリと笑った。ヴィクトールは額にじっとりと汗を浮かべながら、視線を泳がせる。あからさまに動揺している。
「ぐぬぬ…!」
次の瞬間、拳を握りしめて叫んだ。
「ならば勝負だ!!!」
「…はあ?」
「樽の価値は中身の酒で決まる!! どちらが極上の酒を作れるか、ここで決めよう!!!」
「えぇ…?」
「待て待て、お前、酒の腕はあるのか?」
フォルクがジョッキを置いて尋ねると、ヴィクトールは自信満々に胸を叩いた。
「トレジャーハンターは、どんな状況でも最高の一杯を生み出せるものだ!! 俺は旅の中で世界中の酒を飲み、極上の酒の秘訣を学んできた!!」
「ほほう…?」
ドラコが尻尾を揺らし、興味深そうに見つめる。
「いいわよ。こっちも本気の一杯を出して、圧倒的な差を見せつけてあげるわ!」
こうなったら、酔いどれ亭のお酒で黙らせるしかない。私はグラスを取り出し、特別な一杯を用意することにした。
まず、エルフの森の奥深くで熟成された《オークウイスキー》をベースにする。じっくり寝かされたこのウイスキーは、樽の香ばしさと深い甘みが絶妙なバランスを持っている。
次に、《漆黒のハチミツ》をほんの一滴。甘すぎず、ウイスキーのコクをさらに引き立たせる。
そして、特別な《ナイトベリー・リキュール》を加えることで、奥行きのある酸味と芳醇な香りをプラス。舌の上でゆっくりと広がる味わいが、まるで深夜の宝探しのようなワクワク感を演出する。
最後に、《焦がしオークのスモーク》をかけて、樽の風味をさらに強調する。煙がふわりと立ち昇り、グラスの中に閉じ込められた琥珀色の液体が神秘的な輝きを放つ。
「さあ、これが『エルドリッチ・ゴールド』よ」
ヴィクトールはグラスを傾け、一口含んだ瞬間、動きを止めた。
「…こ、これは…っ」
目を見開き、舌の上でじっくりと転がすように味わう。
「濃厚な樽香と、奥行きのある甘み…それにほんのり果実の酸味…まるで、時間を閉じ込めた財宝を飲んでいるようだ…!」
「でしょ?」
私は満足げに微笑む。
「くそっ…こいつはすげえ…」
ヴィクトールはしばらくグラスを眺めたあと、ふっと笑い、肩をすくめた。
「…俺の負けだ。魔法樽を手に入れられないのは残念だが、ここに来ればいつでも飲めるんだろ?」
「…要するに、ただの常連になるってこと?」
「そういうことだ!!!」
店の客たちが一斉にズッコケる音が聞こえた。フォルクはジョッキを片手に苦笑しながら肩をすくめる。
「また妙なのが増えたな」
ドラコは尻尾を揺らし、ニヤリと牙を見せる。
「宝探しもいいが、酒を楽しむのも悪くねぇだろ?」
「ははは! それも冒険のひとつってことだな!!!」
こうして、魔法樽を狙っていたトレジャーハンターは、ただの酒好きの常連客へと成り下がった。…ほんっとに、なんなのよ。
でも、そういえば、あの黒い影みたいな連中も魔法樽を狙ってたわね。…そんなにみんな、美味しいお酒が飲みたいのかしら?
私はため息をつきながら、新しいグラスを拭き始めた。
─
「ほう…魔法樽の存在を知る者がいたとはな…」
「だが、やつらはまだ本当の用途を理解していないようだ…ただの酒の熟成に使うものとでも思っているのか…」
「ふ…ならば好都合だ。我らの手に渡る前に、この事実が広まるわけにはいかん」
闇の中、黒いフードを被った影たちは低く囁き合う。冷たい空気が漂い、計画を練る静かな声が、闇の奥へと消えていった。
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