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酔いどれエルフと酒の歌  作者: チョコレ
第一杯 酔いどれ亭、大騒ぎ!
42/144

第42話 変装100面相、現る!

 店内は活気に満ちていた。酒の香りが漂い、客たちの笑い声が弾ける、まさに酔いどれ亭の黄金の時間。


 しかし、その賑わいの中で、ひときわ怪しい影がカウンターに腰を下ろした。


「ふふ、今宵は特別な夜だな…」


 落ち着いた声と共に、ローブをまとった男が優雅にグラスを傾ける。一見すると気品ある貴族のような振る舞い。だが、私は知っている。


「…また来たわね。」


「おや、私のことをご存知とは光栄ですな。私の名はエルミオン・シルヴァリス。この国の高貴なる貴族で――」


「先週は『海賊キャプテン・ガルディオ』だったわよね?」


 男の手がピタッと止まる。店内のざわめきが静まった。


「いやいや、違いますぞ!? 私はれっきとした貴族で――」

「その前の週は『世紀の怪盗エドガー』って言ってましたよね?」

「そ、それは…!」

「さらにその前は『暗殺者カラス』だったわね?」

「ギャアアアアア!!?」


 貴族風の男――いや、正体不明の変装野郎が椅子から盛大に転げ落ちた。店中の視線が一斉に彼に集中する。


「な、なんだよ! こいつ、そんなに色々名乗ってたのか!?」

「そういや毎回キャラが濃すぎると思ってたんだよな…」

「まさか、同じ奴だったとは…!」


 客たちがざわめく中、カウンターでスナックをかじっていたドラコがぽつりと呟いた。


「…お前、毎回変装してるつもりかもしれねぇけど、マナの波長が同じだからバレバレだぞ?」


「えっ」


 店内が静まり返る。


「え、なにそれ、マナでバレるの?」

「そんなの、普通の人間には分からねぇよな?」

「でもリリィはエルフだからな」


「……」


 変装野郎は絶望したように顔を覆った。


「な、なんということだ…! せっかくの変装が、マナでバレるなど…!」

「そもそもバレてないと思ってたのがすごいわよ!!」


 私はため息をついて、カウンターに寄りかかる。


「で? なんで毎回違うキャラになって来るの?」

「そ、それは…趣味です。」

「趣味!?」

「そう!! 私は変装の達人!! 百の顔を持つ男、ザハル・ノクターン!! 変装しないと落ち着かない体質なのだ!!」

「そんな体質あるかーーー!!!」


 客たちのツッコミが止まらない。


「いやいや、お前、結局どれが本当の姿なんだ?」

「てか、変装する意味あんのか?」

「毎回バレてんのに、よく続けられるな?」


 ザハルは肩を落とし、どこか寂しげな表情を浮かべる。


「…もうこの店には来られないな…」


 なんだか急にしょんぼりして、カウンターから立ち上がる。


「ちょっと待って。」


 私はため息をつきながら、カウンターに特製カクテルを置いた。


 千の仮面。琥珀色のリキュールに青紫のハーブを溶かし、グラスの中でゆっくりと色が変わる。最初は甘く妖艶な香りが鼻をくすぐるが、飲むたびに味わいが変化する不思議な一杯。一口目はフルーティで優しく、二口目にはスパイスが効いてくる。まるで、一人の人間の中に何十もの顔があるかのような、奥深い酒。


 ザハルはしばしカクテルを見つめた後、ゆっくりと口をつける。


「…これは…面白い。」

「変装するのが趣味なのは構わないけどさ。」


 私はグラスを拭きながら、ザハルに向かってにっこり笑った。


「次からは、最初に『今日は誰?』って聞くから、キャラ設定だけでも教えてよね。」

「えっ…?」

「別に変装して来るのはいいけど、みんな混乱するし、一回くらい正体を明かしてみたら?」


 ザハルはしばし悩み、カクテルをもう一口飲む。その瞬間、目を輝かせ、ニヤリと笑った。


「…ふむ、ならば次回は『リリィの幼馴染』として登場しよう!」

「それはやめて!!!」


 ドラコと常連たちのツッコミが炸裂し、酔いどれ亭は今日も笑いと喧騒に包まれながら、夜を迎えた。


 ─


 影たちは互いに頷き合った。


「やはり…マナの波長で正体を暴かれる可能性が高いか…」

「変装して忍び込む手も考えたが…その策は却下で良さそうだな」


 低く囁かれる声が闇に溶ける。彼らは沈黙の中、次なる一手を練り始めた。

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@chocola_carlyle

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