第42話 変装100面相、現る!
店内は活気に満ちていた。酒の香りが漂い、客たちの笑い声が弾ける、まさに酔いどれ亭の黄金の時間。
しかし、その賑わいの中で、ひときわ怪しい影がカウンターに腰を下ろした。
「ふふ、今宵は特別な夜だな…」
落ち着いた声と共に、ローブをまとった男が優雅にグラスを傾ける。一見すると気品ある貴族のような振る舞い。だが、私は知っている。
「…また来たわね。」
「おや、私のことをご存知とは光栄ですな。私の名はエルミオン・シルヴァリス。この国の高貴なる貴族で――」
「先週は『海賊キャプテン・ガルディオ』だったわよね?」
男の手がピタッと止まる。店内のざわめきが静まった。
「いやいや、違いますぞ!? 私はれっきとした貴族で――」
「その前の週は『世紀の怪盗エドガー』って言ってましたよね?」
「そ、それは…!」
「さらにその前は『暗殺者カラス』だったわね?」
「ギャアアアアア!!?」
貴族風の男――いや、正体不明の変装野郎が椅子から盛大に転げ落ちた。店中の視線が一斉に彼に集中する。
「な、なんだよ! こいつ、そんなに色々名乗ってたのか!?」
「そういや毎回キャラが濃すぎると思ってたんだよな…」
「まさか、同じ奴だったとは…!」
客たちがざわめく中、カウンターでスナックをかじっていたドラコがぽつりと呟いた。
「…お前、毎回変装してるつもりかもしれねぇけど、マナの波長が同じだからバレバレだぞ?」
「えっ」
店内が静まり返る。
「え、なにそれ、マナでバレるの?」
「そんなの、普通の人間には分からねぇよな?」
「でもリリィはエルフだからな」
「……」
変装野郎は絶望したように顔を覆った。
「な、なんということだ…! せっかくの変装が、マナでバレるなど…!」
「そもそもバレてないと思ってたのがすごいわよ!!」
私はため息をついて、カウンターに寄りかかる。
「で? なんで毎回違うキャラになって来るの?」
「そ、それは…趣味です。」
「趣味!?」
「そう!! 私は変装の達人!! 百の顔を持つ男、ザハル・ノクターン!! 変装しないと落ち着かない体質なのだ!!」
「そんな体質あるかーーー!!!」
客たちのツッコミが止まらない。
「いやいや、お前、結局どれが本当の姿なんだ?」
「てか、変装する意味あんのか?」
「毎回バレてんのに、よく続けられるな?」
ザハルは肩を落とし、どこか寂しげな表情を浮かべる。
「…もうこの店には来られないな…」
なんだか急にしょんぼりして、カウンターから立ち上がる。
「ちょっと待って。」
私はため息をつきながら、カウンターに特製カクテルを置いた。
千の仮面。琥珀色のリキュールに青紫のハーブを溶かし、グラスの中でゆっくりと色が変わる。最初は甘く妖艶な香りが鼻をくすぐるが、飲むたびに味わいが変化する不思議な一杯。一口目はフルーティで優しく、二口目にはスパイスが効いてくる。まるで、一人の人間の中に何十もの顔があるかのような、奥深い酒。
ザハルはしばしカクテルを見つめた後、ゆっくりと口をつける。
「…これは…面白い。」
「変装するのが趣味なのは構わないけどさ。」
私はグラスを拭きながら、ザハルに向かってにっこり笑った。
「次からは、最初に『今日は誰?』って聞くから、キャラ設定だけでも教えてよね。」
「えっ…?」
「別に変装して来るのはいいけど、みんな混乱するし、一回くらい正体を明かしてみたら?」
ザハルはしばし悩み、カクテルをもう一口飲む。その瞬間、目を輝かせ、ニヤリと笑った。
「…ふむ、ならば次回は『リリィの幼馴染』として登場しよう!」
「それはやめて!!!」
ドラコと常連たちのツッコミが炸裂し、酔いどれ亭は今日も笑いと喧騒に包まれながら、夜を迎えた。
─
影たちは互いに頷き合った。
「やはり…マナの波長で正体を暴かれる可能性が高いか…」
「変装して忍び込む手も考えたが…その策は却下で良さそうだな」
低く囁かれる声が闇に溶ける。彼らは沈黙の中、次なる一手を練り始めた。
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