第40話 値切り魔登場!?
「リリィさん!!ちょっとお話が!!」
店の扉が勢いよく開かれ、会計士オスカー・バルトンが飛び込んできた。
分厚い帳簿を抱え、キラリと光る眼鏡の奥で計算盤を高速で叩く姿は、まるで値引きの鬼。
…嫌な予感しかしない。
「そんな怖がらずに!私は、酒場の経営を助けるために来たんですよ!」
「…あんた、前回も値切り倒して私を泣かせたわよね?」
「さぁ!今日はどこを削減できるか、一緒に見ていきましょう!!」
「やっぱり嫌な予感しかしないぃぃ!!!」
オスカーは早速カウンターに座り、私の看板メニューをじっくりと眺める。
「ほう、『酔いどれスペシャルエール』、一杯五銅貨…これは高すぎるのでは?」
「は!?適正価格よ!!」
「いえいえ、待ってください!原材料のホップの相場を考えると、三銅貨でも十分採算が取れるはずです!!」
「バカ言わないで!醸造技術代とか手間賃とか考えたらこの値段なの!!」
「…では、四銅貨でどうです!?」
「ダメよ!!!」
店の客たちも面白がって私たちの攻防を見守っている。
「おお、今日も始まったな!リリィVS値切り魔!」
「今のところリリィが押され気味だな!」
「会計士が相手じゃ分が悪いぜ!」
「さて、次は……」
オスカーはすかさず、つまみのメニューに目をつけた。
「ほう、この『マジックパンプキンのロースト』、一皿三銅貨……ふむ、これは二銅貨にできるのでは?」
「できるわけないでしょ!?マジックパンプキンは魔法畑でしか育たない超貴重なカボチャなのよ!?」
「いやいや、リリィさん!実は私は農業ギルドの価格データを持っているんですが…」
そう言うと、オスカーは帳簿をバサッと開く。
「はい、今年はマジックパンプキンが豊作!つまり、市場価格が去年の7割! ということは…二銅貨でも確実に利益が出ますね!!」
「な、なんですって……!?」
「さぁ!値下げしましょう!!!」
「嫌よ!!!そんなのやったら利益が吹っ飛ぶわよ!!!」
「なるほど、リリィさんが値下げしないなら…客が直接交渉すればいいのでは?」
「…は?」
次の瞬間、店の常連たちがオスカーの指南のもと、値切り交渉を始めた。
「おいリリィ、俺も三銅貨のエール、まけてくれないか?」
「リリィさん、今日のつまみ、オスカーさんの言うとおり二銅貨でお願いできます?」
「今後、セット割とか考えてくれないか?」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私はカウンターを叩きつけ、鬼の形相でオスカーを睨みつける。
「アンタ、客を値切り魔に育てるんじゃないわよ!!!!」
「いやいや、健全な価格交渉ですよ!消費者の権利です!!」
「そんな権利、ここでは無効よ!!!」
「…いいわ。」私は一呼吸おき、にやりと笑った。
「値切り交渉を受け入れる代わりに、まずこれを飲んでみなさい。」
カウンターの奥から酒を取り出し、オスカーの前に置く。琥珀色の液体がグラスの中で揺れた。
「なんです?これは?」
「私が手間暇かけて仕込んだ特製の酒よ。材料費だけ見たら安いけどね――この味を出すには、時間と手間がかかるの。」
「ふむ、では遠慮なく。」オスカーは眉をひそめながら、一口飲んだ。
「…ん?」
口に含んだ瞬間、広がる果実の甘み。そして、じわじわと追いかけてくる複雑なコクと深み。飲むたびに印象が変わる、不思議な余韻が舌の上に残る。
「どう?簡単に値切れるような代物かしら?」
「…なるほど、確かに深みのある味わいですね。」オスカーは考え込むようにグラスを回す。
「しかし、やはり原材料はそこまで高価では――」
「バカ言わないで!」私はピシャリと言い放つ。
「この味を出すのに、どれだけの時間と労力がかかってると思うのよ?果実の選別から発酵、熟成、最後の味の調整まで、全部私の手仕事。それにかかる時間と技術、職人の手間を、あんたはタダだと思ってるの?」
「うっ…!」
「いい?材料費なんて、コストのほんの一部よ。それだけじゃ、本当の価値は測れないの。」
オスカーはぐっと言葉に詰まる。周りの客も、しんと静まりかえった。
「…ぐぬぬ…しかし…」
「ほら、会計士さん。アンタの仕事も一緒でしょ?」
「…何?」
「帳簿をつけるだけなら、誰にでもできる。でも、どこでコストを削るべきか、どう経営を改善すべきか、それを見極めるのがあんたの技術でしょ?」
「……!」
「その技術料を値切られたら、どう思う?」
「……」
オスカーは沈黙したまま、じっとグラスを見つめる。そして、ゆっくりとため息をついた。
「…負けました。リリィさんの言う通りですね。」
私は満足げに腕を組む。「分かればよろしい。」
オスカーは悔しそうにしながらも、最後の一口を飲み干した。
「この酒…手間暇が詰まった分だけ、確かに深い味わいですね。」
「でしょ?」
「値切るなんて、とてもできません…むしろ、適正価格より高くしてもいいくらいかと…」
「そう思うなら、今日はしっかり払っていきなさいね!」
「うっ…!」
店内がどっと笑いに包まれる。こうして、酔いどれ亭の価格は無事に守られたのだった。私は満足げにグラスを磨きながら、もう一杯注ぐ。うん、この味はやっぱり、手間暇かけた分だけ、最高に美味しいのよね。
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