第39話 価値を見抜けない鑑定士!
店は今日も大盛況!
酒が注がれる音、陽気な笑い声、カウンター越しに交わされる軽口――ああ、これこそが私の愛する酔いどれ亭の夜よ。
だけど、そんな心地よい雰囲気をぶち壊すように、一人の男が静かにカウンターへ腰を下ろした。
「む…この店、なかなかの価値があるな。」
ローブをまとい、無駄に落ち着いた雰囲気を漂わせる男。銀縁の眼鏡越しに店内を鋭く見渡すその視線は、まるで全てを見抜くと言わんばかりの自信に満ちていた。こいつ、見たことある。ヴァルター・アークライト。
何でも鑑定できると豪語する、世界最高の特級鑑定士。価値のないものには見向きもしないが、価値あるものには執着することで有名な男だ。
「ふむ、まずは酒だな。」
ヴァルターはカウンターに並んだ酒瓶をじっくりと見渡し、スッと手をかざした。
「鑑定――開始。」
ピカーッ!!
突如、彼の手からマナが放たれ、カウンターの酒が眩しく光る。なんなのよこれ、酒の鑑定に魔法使うの!?
「ほう…この『月影のミード』、蜂蜜は東の森の千年樹から採取されたもの。発酵期間は…ほう、通常の三倍。なるほど、芳醇な香りの理由が分かった。」
「おおっ!? そんなことまで分かるのか!」
「こいつ、本当に特級鑑定士か!?」
客たちがざわめく。
「では次、このワイン…」
またもや鑑定魔法が発動し、ヴァルターが静かに口を開く。
「この赤ワイン…十年前の王城の晩餐会で使われた極上品。しかし、保管環境が少し悪かったか。香りにほんのわずかに雑味がある。」
「えええ!? そんな細かいことまで分かるのかよ!!」
感嘆の声が上がる中、ヴァルターは満足げに微笑み、ワイングラスを傾けた。
「やはり…価値あるものを見抜くことこそ、鑑定士の誇り。」
…ふーん、確かにすごいことは分かった。でも、なんかこう、めちゃくちゃ面倒くさい奴ね…。
「では、この店の最高の逸品を見せてもらおう。」
ヴァルターがカウンターの奥へと視線を移す。
「そう…噂に聞く、酔いどれ亭の魔法樽だ。」
「…え?」
客たちが一斉に振り向く。
「ちょ、ちょっと待って! うちの魔法樽を鑑定する気!?」
「当然だ。世界最高の特級鑑定士である私が、見抜けぬものはない!」
いやいやいや、やめて。
あの魔法樽は大切な商売道具!適当に触らせるわけには――
「では――鑑定開始!!!」
ピカーッ!!!
またもや鑑定魔法が発動。マナの光が樽を包み込む。そして――
……
「……ん?」
ヴァルターの顔が微妙に曇る。
「……ふむ?」
もう一度、魔法をかける。
ピカーッ!!!
……しかし、
「……っ!?!?」
ヴァルターの表情が完全に硬直した。
「ど、どうした?」
「まさか、すごい価値があるって分かったのか!?」
みんながワクワクしながら見守る中、ヴァルターは震える声でつぶやいた。
「…鑑定不可。」
「は?」
「…これは…世界最高の特級鑑定士である私が…見抜けない。」
「ええええええええええええええ!!!!」
店内大混乱。
「いやいや、なんで!? 魔法樽ってそんなにすごいものなのか!?」
「でも、ヴァルターさんが鑑定できないって、やばくない!?」
ヴァルターは魔法樽を見つめながら、口を引き結ぶ。
「…これほどまでの存在とは…まさか…いや…」
そして、ゆっくりと私の方を向いた。
「…仕方ない。リリィ殿を鑑定するか。」
「なんでそうなるのよ!!?!?!?」
「いや、もはやこの店のすべての価値の源は、リリィ殿にあると考えるべきだ。」
「待て待て待て待て!!! 勝手に鑑定しようとしないで!!」
ヴァルターは私に向かってスッと手を伸ばす。
「鑑定――」
「やめなさい!!!!!」
バチィィィン!!!!!
私は全力で彼の手を払いのけた。
「この店は勝手に鑑定する場所じゃないの!!」
「くっ…しかし、私が見抜けぬものなどあり得ぬ…!」
「知らないわよ!! もう飲んで帰りなさい!!!」
ヴァルターはしばらく沈黙した後、未練たっぷりにグラスを傾ける。
そこに注がれているのは、私が彼のために特別に用意した酒―― 「霧の魔酒」。
これは夜明け前の霧の中で蒸留される、希少なスピリッツ。ひとくち飲めば、舌にふわりと広がる爽やかなハーブの香りと、後からじわっとくる濃厚なコク。飲めば飲むほど変化する味わいが特徴で、飲み手によって感じる味が違うという不思議な酒。
ヴァルターはゆっくりと口に含み、目を細めた。
「…これは…興味深い。飲めば飲むほど違う表情を見せる……」
「鑑定士でも、一口で全てを見抜くのは無理でしょ?」
「…なるほど。」
ヴァルターは少し考え込み、グラスを揺らす。
「リリィ殿、私はまた来るぞ…必ず貴殿の価値を見抜くために…!!」
「来なくていい!!!」
酔いどれ亭の夜は、またもや騒がしく更けていくのだった――。
─
「魔法樽を鑑定しようとはな…」
「ふ…だが、あれは現代の尺度で測れる代物ではない…」
「無駄な足掻きだ…」
影たちは囁き合い、その秘められた力の恐ろしさを、改めて確信していた。
ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
@chocola_carlyle




