第38話 毒消し草、大豊作!
店内は今日も絶好調。酒が注がれる音、陽気な笑い声、カウンター越しの軽口――いつもの酔いどれ亭の夜。
「リリィ!助けなさい!!!」
平穏をぶち破る大声とともに、カウンターに紙袋をバンッと叩きつけたのは、酒商人ジーナ・ロスティア。
「ちょっと、また何よ!?今忙しいんだから、急に叫ばないでくれる!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないの!これ見なさいよ!!」
袋を覗くと、中には青々とした葉っぱがぎっしり詰まっている。
「……葉っぱ?」
「毒消し草よ!!!」
「はぁぁ!?!?」
思わず二度見した。
「なんであんたがそんなもん持ってんのよ!!?」
「話せば長いんだけど…いや、短いわね。仕入れすぎたのよ!!!」
「バカなの!?!?!?」
「バカじゃないわよ!!今年は森の気候が良すぎて、毒消し草が大豊作!市場に溢れて値崩れしたの!!お得と思って大量に仕入れたの!でもこの量、どうにかしないと大赤字よ!!!」
「それでウチに持ってきたの!?あんた酒商人でしょ!?手広げすぎ!!」
「だってアンタ、妙な酒作るの得意でしょ!!?」
「妙な酒言うな!!!」
しばし、袋の中の毒消し草を睨みつける。
もともと薬師や冒険者向けの薬草で、少量なら身体を清める作用がある。でも摂りすぎると強烈な苦味…待って?
苦味と清涼感があるってことは…
「ジーナ。」
「な、何よ?」
「エールと合わせてみるのはどう?」
「…は?」
「ちょっと甘めのエールに、この毒消し草の清涼感足したら、意外とイケるんじゃない?」
ジーナは一瞬ポカンとしたあと、すぐにニヤリと笑った。
「それ、いいじゃない!!やりましょう!!!」
こうして、毒消し草エールの開発が始まった――!!
試作には手間取ったが、試行錯誤の末、ようやく完成したのは透き通る黄金色のエール。毒消し草のエキスを抽出し、エルフの蜂蜜とスパイスを加えたことで、ほのかな甘みとキレのある後味を実現した。
「…いい感じかも。」
「試してみましょう!」
私とジーナは、そろりとグラスを傾ける。
「おおっ!?」
「これは…意外と美味しい!!!」
苦味はほとんど感じず、清涼感が後を引く。スッと喉を通る爽やかさは、普通のエールにはない魅力だ。
「これ、売れるわよ!!!」
客にも試してもらうことにした。
「さぁ、新作のクリアエールよ!」
「おお、なんだこれ!?すごい爽やか!」
「暑い日の一杯にちょうどいいな!」
「でも、なんか…体が妙に軽くなったような…?」
「…?」
客たちが一斉に腕や足をぐるぐる回し始める。
「……あれ?なんか俺、昨日の疲れが消えてる……?」
「ほんとだ!体が軽いぞ!!」
「これ、めっちゃ回復する酒じゃね!?!?」
ジーナがニヤリと笑う。
「飲むだけで疲労回復する酒!?これ大ヒット確定じゃない!?」
「……いや、ちょっと待って。」
私は何かに気づいてしまった。
「この酒、回復しすぎじゃない!?」
「え?」
「だって、酒を飲むと体が回復するってことは……」
「……?」
「飲み続けられるんじゃない!?」
「!!?」
店内が一瞬静まり返ったあと――
「おい、もう一杯!!」
「俺も!!!これなら朝まで飲める!!!」
「ちょっ、待てぇぇぇぇ!!!!」
客たちは次々とジョッキを掲げ、無限ループへと突入する。
「これ、やばいわよ……!」
「えぇ……」
その後、客たちは酔いつぶれても毒消しエールで回復し、また飲むという地獄のループに陥った。
「うぅ……リリィ、俺もう何杯飲んだか分かんねぇ……」
「俺も……なんか意識が……」
結果、全員が最終的に限界を迎え、店内のあちこちで崩れ落ちるように眠ることに。
「……これはダメね。」
私は深いため息をつきながら、ジーナと視線を交わす。
「封印しましょう。」
「……同感。」
こうして、毒消し草を活用したはずのエールは危険すぎるとしてお蔵入りになったのだった。
教訓!回復する酒は危険!!!!!




