第37話 酔いどれ亭、今夜は大勝負!
店の扉が勢いよく開いた。
「さて諸君!!今夜は運試しといこうじゃないか!!」
派手なロングコートを翻しながら入ってきたのは、エゼル・ワルディア。
自称「この街一番のギャンブラー」で、勝負事に命を懸ける男だ。
酒を飲みに来るのではなく、酒場で賭け事を始めるのが彼の常である。
「リリィ!まずは俺に最高の酒を!」
「はいはい、また勝負が始まるのね……」
私はため息をつきながら、エゼルの定番『フォーチュン・ブランデー』を注ぐ。 琥珀色に輝くこのブランデーは、ナッツの香ばしい風味が特徴で、じんわりと喉を温め、まるで運命を味方につけたような気分にさせる――らしい。エゼル曰く「この酒を飲んだ夜の勝率は高い」そうだが、私の記憶では何度も負けている。
「ふむ、香りは最高だな…今夜は勝てる気がする!」
「いや、前回それ飲んで大負けしてたじゃない。」
「過去を気にするやつに、未来のツキは回ってこない!!」
「なら今ここで飲まずに帰れば、未来のツキが回ってくるんじゃない?」
「馬鹿な! 俺は今夜こそ勝つために来たんだ!」
やっぱり聞く耳持たない。エゼルはブランデーを一口含み、満足げに頷くと、バサッとポーカーデッキをテーブルに広げた。
「さあ、ポーカーの時間だ!」
店内がざわめく。
「おいおい、前回はダイスだっただろ?」
「その前はコイン投げだったぞ!」
「今度はポーカーかよ!」
「そうとも! 今夜は手札の神々に運命を委ねよう!!」
「勝手に神を巻き込むな!」
私はカウンター越しにじとっと睨んだが、すでに常連たちはやる気満々だった。
「せっかくだし、やるか!」
「ギャンブラー相手に勝ったら気分いいだろ?」
「負けても酒のつまみにはなる!」
こうして、ポーカー勝負が始まってしまった。
テーブルには次々とカードが配られる。
「さぁ、どう出る?」エゼルがニヤリと笑う。
「こりゃ面白いな。」ドラコが尻尾を揺らしながらカードを眺める。
「うーん、慎重にいくか…」フォルクは考え込んでいる。
しかし、一人だけ異様に自信満々な冒険者のオッサンがいた。
「お前ら、もうダメだぞ。俺の手札は最強だからな!」
「いや、まだ一枚もめくれてないけど?」
「俺の勘がそう言ってる!!」
「そんな賭け方やめて!!!!!」
私は思わず叫んだが、すでに全員ノリノリだった。
「さぁ、ベットするか?」
「もちろん!」
「コインならあるぞ!」
「ツケでいいか?」
「ツケはダメ!!!!」
ポーカー勝負は白熱。
だが、ここで異変が起こった。
「…ん?」
エゼルはじっと手札を見つめて、ボソッとつぶやいた。
「…なんか、おかしくないか?」
「どうしたの?」私が聞くと、エゼルは手札を広げてみせる。
「俺のカード、全部エースなんだが。」
「は!??」
店内がざわめく。
「俺のは全部ハートだ!」
「おい、俺のは…なんだこれ、全部ジョーカー!?」
「ちょっと待ってよ、こんなデッキ見たことないんだけど!?」
私もテーブルをのぞき込んでビックリ。
このポーカーデッキ、完全にイカサマ仕様じゃない!!?
「エゼル! あんた、デッキになんか細工したの!?」
「いや、俺も知らねぇ!!」
そのとき、カウンターの隅でワインをたしなんでいた元大賢者のマーリン・エバーソーン(ただの呑兵衛)が、クククと含み笑いを漏らしながらグラスを揺らした。
「いやいや、お前さんたち、勝負ってのは運だけで決まるもんじゃないぞ?」
「…マーリン!!! お前、何やった!!?」
「なぁに、ちょっとした魔法をかけて、運試しを面白くしただけよ。」
「面白くねぇぇぇぇ!!!!!」
エゼルがテーブルをバンッ!と叩く。
「手札が全部変わるとか、そんな魔法があるのか!?」
マーリンはゆったりとワインをすすり、ニヤリと笑う。
「“運命の悪戯” って魔法をな。勝負の瞬間に、持ち主の運気を反映した手札に変わるんだよ。」
「…おい、まさか俺のジョーカーだらけの手札、俺の運のせいなのか?」
「はっはっは! そりゃそうだろうよ!」
「ふざけんな! なんで俺の運、こんなに悪いんだよ!!!」
「知らんがな。お前さん、最近ツイてないことでもあったんじゃないか?」
エゼルは考え込むが――
「いや、俺は常にツイて――」
「嘘つけ!!! 昨日、商人相手に大負けしてたじゃねぇか!!!」
「それは…ちょっとした事故だ!!!」
店内は大爆笑。エゼルは顔を真っ赤にしてマーリンを睨むが、当の本人はまったく動じていない。
「さて、そろそろ魔法を解いてやるか…」
マーリンが指をパチンと鳴らすと、ふわっとしたマナの波がテーブルを包み、手札が元に戻る。
「おぉ! 俺のフルハウスが帰ってきた!!!」
「俺のストレートも!」
エゼルはひどく渋い顔でため息をつく。
「じいさん、頼むから勝負に干渉するのはやめてくれよ…!」
「まぁまぁ、勝負事には思いがけないことがつきものよ。これも修行の一環じゃ。」
「こんな修行いらんわ!!!!!」
店内の笑い声とともに、ポーカー勝負は無事――いや、大混乱のまま終了した。
「まぁいいさ。」エゼルは苦笑しながらブランデーをもう一口飲む。
「今夜のツキはこんなもんだろう。」
「その次がないように、私はちゃんと見張るわよ!」
私はカウンターに積まれたコインを回収しながら、もうしばらくポーカーは禁止にしようと心に決めた。
教訓!勝負は魔法の影響を受けない場所でやれ!!!
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