第36話 ミスリル目前!爆弾発言!
店はいつもどおりの賑わいを見せていた。酒が注がれる音、陽気な笑い声、カウンター越しに交わされる軽口――何もかもが心地よい、いつもの酔いどれ亭の夜。
そんな中、店の扉が勢いよく開かれた。
「リリィ!!今夜は俺に最高の酒をくれ!!!」
カウンターに座ったのは、いつもの常連、フォルク・ストランド。彼は胸を張りながらギルドのバッジを誇らしげに掲げる。
「おぉ、なんなのよ、その得意げな顔は。」
「聞いて驚け!!俺はもう少しでミスリル級だ!!!」
「おおおお!?すげぇ!!」
「ついにここまで来たか!」
「これは祝い酒が必要だな!!」
店中の客たちがどっと盛り上がる。
「いや~、ここまで長かったぜ……!」
フォルクは誇らしげに腕を組む。なるほど、それは確かに祝うべきことね。
「そりゃめでたいわね!じゃあ今夜は特別に、『英雄の杯』を用意するわ!」
私はさっそくカウンターの奥に手を伸ばし、慎重に酒を注ぎ始める。『英雄の杯』は、ただの祝杯じゃない。勇者にふさわしい黄金の輝きをまとった一杯。
琥珀色の蜂蜜リキュールに、黄金色のスパイスワインをたっぷりと注ぎ、仕上げに微粉末にした金樹の花粉をひとふり。光を受けて、グラスの中で黄金の粒がふわりと舞い、まるで飲む者を祝福するかのように輝く。そして、最後に太陽の実の蒸留エッセンスをほんの少し。果実の濃密な甘みと、スパイスの熱が調和し、まるで口の中で黄金の炎が灯るような味わいに仕上げた。
「さあ、特別な一杯よ。」
フォルクは感慨深げにグラスを手に取る。
「…リリィ、本当にお前の酒は最高だなぁ…」
「ふふっ、ありがと。でも飲みすぎないでよ?」
「はっはっは!大丈夫、大丈夫!俺は今夜、勝者の酒を楽しむ男だからな!!!」
こうして、フォルクの祝勝会が開幕した。
「うおおおおお!!飲めぇぇぇぇ!!!」
「もっと酒を持ってこい!!」
「ミスリル目前の男が飲むんだ!!誰も止めるな!!」
客たちの煽りもあり、フォルクはどんどん飲み進める。
「リリィ、お前も一緒に飲め!!」
「私は店主よ!?酔ったら店回らないでしょ!!」
「じゃあ代わりに…俺の隣に座っててくれ!!」
「は?」
フォルクは勢いよく私の手を取った。
「いいか、リリィ。俺はな、お前の酒が好きだ。いや、それだけじゃない…」
店の喧騒が少しだけ静かになる。
「…お前のことも…なんか好きなんだよなぁ…?」
「………は?」
「いや、なんつーの…よくわからねぇけど…なんか…いい感じなんだよ、お前…」
「……………」
店内が完全に静まり返る。
「…えっ?今の、何?」
翌朝――
フォルク、豪快に二日酔い。
「ううう…頭いてぇ…」
私はカウンターの奥で無言でコップを拭いている。
「…なぁ、昨日の俺、なんかやらかしてないよな?」
「…………」
「え、ちょっと待てリリィ、なんでこっち見ないの?」
「…いや、別に。」
「お、おい、そんな反応されると不安になるんだが!!?」
「昨日、何言ったか覚えてないのね?」
「え!?俺、何か言ったのか!!?」
私はコップを拭きながら、冷静を装う。
「…別に、何も。」
「うそだぁぁぁぁ!!!絶対俺、なんか言っただろ!!!!」
フォルクはガタガタとカウンターを揺らす。
「なぁ、教えてくれリリィ!!!俺、昨日何した!?!?」
「さぁ?知らないわよ?」
「嘘だぁぁぁぁ!!!俺、酒の勢いで何か大変なこと言ってないか!?!?」
「…さぁねぇ。」
私はゆっくりとフォルクの前に英雄の杯そっくりに仕上げたジュースを置く。
「…今日からしばらく、これにしといたら?」
「いや、教えてくれよぉぉぉ!!!」
こうして、フォルクだけ何も覚えてないまま、私だけが恥ずかしい朝を迎えたのだった。
─
「酔いどれ亭に入り浸る冒険者が、ミスリル級目前とはな…」
「しかも、亭主との関係も良好ときた。ならば、確実に動いてくるだろう…我々の邪魔をな」
「放置はできん。我らも相応の策を講じねばなるまい…」
朝焼けに溶けるように、影は静かに呟き、そして気配ごと霧散した。
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