第35話 飲めないお酒を愛すのだ!
酒の香りが漂い、客たちの笑い声が響くいつもの夜。酔いどれ亭は今日も変わらず活気に満ちている。カウンターでは常連たちが思い思いの酒を楽しみ、奥のテーブルでは賭け事が始まりそうな雰囲気。そんな中、店の扉が勢いよく開いた。
「リリィ!! 今夜も最高の一杯を!!」
カウンターに滑り込んできたのは、長身で優雅な佇まいの男、エドゥアルド・ムーンリヴァー。見た目も仕草も貴族然とした完璧な紳士。その額には微かに汗が光り、息を弾ませながら私を見つめる。
「おいおい、なんでそんなに息切らしてんのよ。」私はグラスを磨きながら眉をひそめる。
「ふっ…町中を駆け抜け、夜の香りを全身で感じていたのだ…! そしてたどり着いたこの酒場こそ、俺が愛する場所…!」エドゥアルドは胸に手を当て、陶酔したように言った。
「お前、酒飲めないんじゃねーか!!」
常連たちが一斉にツッコむ。
「違うんだ…!」エドゥアルドは劇的に目を伏せ、深く息を吸った。「俺は酒を 飲めない だけで、酒を愛している!!」
「お前のその情熱を、もっと別のものに向けろよ!!」
そう、エドゥアルドはアルコールが一滴でも体に入ると即座に昏倒する体質。それなのに、酒の美しさや香りに心を奪われ、ただ「愛でる」ことに情熱を燃やしている。
「リリィ! 今夜はどんな素晴らしき一杯がある!? 俺の魂を揺さぶるものを!!」
「…だから飲めないのに?」
「だが、香りを嗅ぐことはできる! 色を愛でることもできる!」
「…めんどくさッ!!」
ため息をつきつつ、私はエドゥアルド専用の特製カクテルを作る。琥珀色のハーブティーに、青い魔法のエキスを数滴。グラスの中でゆっくりと紫へと変化し、縁には金色の砂糖を散りばめた。その名も 『幻影のグラス』。
「…ふぅ…なんと美しい!」
エドゥアルドは陶酔したようにグラスを眺める。
「まるで夕暮れの海に沈む太陽のような輝き…! この色彩の魔法…!」
「いいから飲めよ!!」
「バカを言うな、リリィ!! 俺は飲まない! この美しさを、愛でるのだ!!」
「めんどくせええええええ!!!!!」常連たちが一斉に叫ぶ。
「では、次はこの『ルビーの涙』を見せてもらおうか。」エドゥアルドがワインのボトルに目をつける。
「それ、赤ワインだけど。あんた飲めないじゃない。」
「見ればいい! 香りを楽しめばいい!!」
ワイングラスを手に取り、くるくると回しながら鼻を近づけるエドゥアルド。
「はぁぁ…なんという芳醇な香り…! 葡萄の深みが、心の奥底にある愛を揺さぶる…!!」
「飲めよ!!!!!」常連たちのツッコミが響く。
「ダメだ! 飲んだら俺は倒れる!!」
「じゃあもう、家で香水でも嗅いでろよ!!」
店の客たちが大笑いする中、エドゥアルドはうっとりとため息をつく。
「しかし、リリィ…俺にはひとつだけ、夢がある。」
「…また面倒くさいこと言い出しそうね。」
「俺はいつか、酒に酔ってみたい…!」
「無理よ!!!」全員の声がピッタリそろった。
エドゥアルドが本当に飲めば三秒で昏倒するのは、過去の実験で証明済み。
「お前が酒を飲む=路地裏で伸びるか、神殿送り」
「ならば、どうすれば俺は酒の世界を感じられる…?」
「だからもう、お前には無理なんだって!!!」私は大声で言い放った。
――そして、その瞬間。
「…ならば!」エドゥアルド、突然 ワインをぐいっと飲んだ。
「はぁぁぁぁぁ!!!!!」
「飲んだぁぁぁぁぁ!!!!!」
店内大パニック。
そして、
バタン!!!!
「倒れたぁぁぁぁぁ!!!!!」
「だから言ったでしょ!!!!」
私は慌ててエドゥアルドを支える。すでに顔は真っ赤、意識は半分飛んでいる。
「だ、 大丈夫!?」
「…ふふ…俺は…今、葡萄畑の夢を見ている…」
「勝手に陶酔するな!!!!!」
常連たちが大爆笑する中、私は深いため息をついた。
「もう、香りだけ楽しませるようにしよう…」
こうして、アルコールに弱いロマンチストはまたもや 飲まずに酔いしれる夜 を過ごすのだった――。
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