第34話 絶対に結婚しない貴公子!
店の賑わいもピークを迎え、私はカウンターで最高の一杯を仕上げていた。グラスの中で琥珀色の液体がゆるやかに揺れ、繊細な泡が立ち上る。今夜の特製『森の月光エール』。香ばしい木の実とハーブの香りがほのかに漂い、飲み口はまろやかで、それでいてキレのある仕上がり。ミスティルの葉を浮かべることで、森の月夜を思わせる幻想的な雰囲気を演出している。
「ふぅ、完璧…」と、満足げにグラスを磨いていた、その時。
「リリィ!!酒だ!!今夜は最高に強いやつを持ってこい!!」
扉を勢いよく開け、カウンターに腰掛けたのは金髪碧眼の貴公子レオナード・ヴァレンシュタイン。剣も魔法も一流、文武両道、見目麗しき貴族の跡取り――ただし、絶対に結婚しない男として悪名高い。
「…また破談になったのね。」
ため息まじりに言うと、レオナードはピクリと眉を動かし、グラスを手に取った。
「違う!俺はただ…そう、考えが変わっただけだ!!」
「ふーん?で、今回はどの段階で逃げたの?」
「正式な婚約の直前で…」
「それ、もう逃げ遅れてるわよ!!!」
「誤解だ!俺は最初から結婚というものに縛られるつもりはなかった!!」
「じゃあ最初から付き合うな!!!」
レオナードは『森の月光エール』を一気にあおると、目を閉じて酔いしれるようにため息をついた。
「はぁ…相変わらずいい酒だ…しかし、なぜだ…なぜ俺は、こうも自由を求めてしまうのだ…」
「知らないわよ!!!」
その瞬間、店の扉がバァァン!!!と大きな音を立てて開いた。
「レオナード!!!!」
店中がピクリと反応する。勢いよく踏み込んできたのは、美しい女性たち。
「ちょっと待て…これ、全員元婚約者じゃねぇか?」と、フォルクが小声で言った。
「うおおおおおおお!?!?!?」
レオナードはグラスを落としそうになりながら、慌てて私の後ろに隠れた。
「リ、リリィ…助けてくれ…!」
「嫌よ!!巻き込まれたくない!!!」
赤毛のクラリッサがバン!とカウンターに手をついた。
「レオナード!!あんた、どういうつもり!?婚約寸前で逃げるなんて許さないわよ!!」
「そ、そうよ!!私だって婚約指輪まで用意したのに!!」
「私なんか結婚式の招待状まで送っちゃったのよ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レオナードは全力でテーブルの下に潜り込む。
「お前ら…本当に俺のことを愛していたのか…?」
「当たり前でしょ!!!」
「…いや、マジでなんで全員から逃げたんだよ?」と、フォルクが困惑しながら尋ねる。
「だって、俺は自由が――」
「自由自由って言うけど、結婚してても自由な奴なんていくらでもいるわよ!!」
「…え?」
レオナード、一瞬固まる。
クラリッサが腕を組んで眉をひそめる。
「例えば、うちの兄!結婚してても旅に出まくってるし、家にはほとんどいない!!」
「うちの姉も!!商人だけど、夫とは全然べったりしてない!!」
「仕事の関係で別居状態の貴族夫婦なんてザラよ!!」
「…………」
レオナードの顔が青ざめる。
「つまり…俺は…」
「勝手に結婚を誤解してたんじゃないの?」
「ぐおおおおおおおおお!?!?!?」
レオナード、ショックでテーブルに突っ伏す。
「俺は…俺は今まで何を…!」
「何をじゃないわよ!!!早く全員に謝りなさい!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
こうして店の真ん中で、貴公子レオナードが過去の恋人たちに土下座するという、前代未聞の光景が繰り広げられた。
「はぁ、今日もドタバタね…」
私はため息をつきながら、新しい酒を注ぐ。
もうこの男、絶対結婚できないわね。
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