第30話 禁忌の時間を操作する!?
夕方の酔いどれ亭。まだ客足がまばらな時間帯、私はカウンターで新作のお酒を試作しながら、ぼんやり考えていた。最近のお客さんたち、みんな口をそろえて「驚きが欲しい!」とか「一生忘れない一杯を!」とか、どんどん注文が難しくなってきてるのよね。うちは気軽に飲める酒場なのに、そんな大げさな期待を持ち込まれても困るっての。
「さて、次の新作はどうしようかしらねぇ…。何かこう、時間を忘れるような特別な一杯とか?」
そう呟いた瞬間、扉がバタン!と勢いよく開いた。
強い風が吹き込み、棚に並べていたグラスがガタガタ揺れる。振り返ると、そこに立っていたのは痩せこけた魔法使いらしき男。ボロボロのローブに杖を握りしめていて、その杖には何やら古代文字のような模様が彫られている。目の下には深いクマ、でもその目はギラギラと光っていて、なんだか危険な匂いがする。
「ここが…ここが噂の酔いどれ小屋か!」
彼は低い声で叫ぶように言い放ち、そのままカウンターにズカズカと歩み寄った。
「えーっと、いらっしゃいませ?何のご用かしら?」
ちょっと警戒しながら尋ねると、彼はズイッと杖を私に向けてきた。
「私はクロノス・ヴェイグ!時間操作の禁忌魔法を研究する者だ!」
…時間操作?それって古代の伝説に出てくる魔法じゃないの?本当にそんなものが使える人がいたら、世界中の魔法学院がほっとかないわよね。
「で、その禁忌魔法研究者様が、どうしてうちの店に?」
「研究が行き詰まったんだ!頭を回転させるには、酒だ!酒の力しかない!」
いやいや、酔ったら余計に失敗するでしょ。心の中で突っ込みつつ、私は何とか笑顔を作った。
「なるほどね。それで、時間操作の片鱗でも見せてくれるのかしら?」
「いいだろう!見せてやる、私の魔法の一端を!」
クロノスが杖を振ると、カウンターに置いていたグラスが一瞬だけ加速して滑り、そのまま急停止。次の瞬間、スローモーションみたいな動きで床に落ちて、派手に割れた。
「ほら、これが時間操作の力だ!」
「いやいや、ただグラス割っただけじゃないの!」
ツッコむ間もなく、クロノスは次々と魔法を試し始める。
「このタルトの時間を少しだけ戻して、焼きたてにしてやろう!」
そう言って杖を向けると、タルトが一瞬だけ光った。次の瞬間――タルトは黒焦げになっていた。
「ちょっと!時間戻すどころか燃やしてどうするのよ!」
「ちょっと計算を間違えただけだ!」
そんなやり取りをしていると、店の奥からフォルクが現れた。
「おいリリィ、また厄介なのが来たな。」
「厄介って言うな!私は偉大な研究者だ!」
クロノスが憤慨するも、フォルクは呆れた顔で肩をすくめた。
「で、私に何をしてほしいの?」
「完璧な魔法を再現するための酒を作ってくれ!時間を象徴する、特別な一杯だ!」
「特別って言ったって、うちにある材料で何とかするしかないわよ。」
私は棚を眺めながら少し考え、手慣れた材料にひと工夫を加えることにした。ベースには、冷たい冬の森で育まれたリンゴから作られる「スノーアップルシードル」を選ぶ。これをギリギリまで冷やして爽やかな冷たさを引き出し、輝く氷片のような「クリスタルリーフ」を刻んで沈める。さらに仕上げに、まるで粉雪のようにきらめく「アイスシュガー」をひと振り。
グラスに注ぐと、透明な液体の中に小さな氷の結晶が静かに舞い、表面には淡い霜の模様が広がる。まるで時間が凍りついてしまったかのような幻想的な光景が広がった。
「ほら、これが時間を閉じ込める、氷の一杯よ!」
私はそう言いながら、彼の前に一杯の「コールドフロストシードル」を差し出した。その冷たさはひんやりと体を包み込み、飲む者をまるで凍った時間の中にいるような気分にさせる一杯だ。
クロノスは目を輝かせながらそれを一口飲み、感動した様子で深く息を吐いた。
「素晴らしい…これだ!これで私は禁忌の壁を超えられる!」
そう言うやいなや、彼は杖を再び振り回し始めた。そして次の瞬間――。
棚の上に置いてあったリキュールの瓶が次々と加速して飛び出し、あちこちで派手に割れる音が響く。
「ちょっと!何してくれてんのよ!」
私は怒鳴ったが、クロノスは全く気にせず、「これは実験の一環だ!」と開き直った。結局、私はため息をつきながら言った。
「時間魔法なんて、伝説中の伝説よ。元オリハルコン級の私が出会った誰も、そんなの成功した人なんていなかったわ。」
「そんな…!」
クロノスが絶望したように肩を落とすので、私は続けて提案した。
「でもね、西と東の大陸の間にある孤島に、全ての魔法を研究する魔法学院があるって聞いたことがあるわ。そこなら、何か進展があるかもしれないわよ。編入試験でも受けてきたら?」
彼は目を輝かせて立ち上がった。
「ありがとう、リリィ!私は必ず成功してみせる!」
そう叫びながら去っていくクロノスの後ろ姿を見ながら、私は深いため息をついた。
「ほんと、面倒くさい客ばっかり…。でもまあ、新作が好評だったのは悪くないわね。」
片付けを始めると、ドラコが尻尾で棚を掃除しながらボソッと言った。
「時間操作どころか、ただのドタバタだったな。」
私は苦笑しながら、「ほんと、それね。」と答え、次のお客の準備に戻った。
─
「時間操作の禁忌魔法か…是が非でも手に入れたいものだ。」
影の一人が低く呟く。
「だが、どの研究機関も未だ糸口すら掴めていない…となれば――」
黄昏の中、別の影が静かに続ける。
「この店に眠る魔法樽を、確実に我らの手中に収めるしかない…。」
じっと酔いどれ亭を見つめる影たちの視線には、野心と冷徹な決意が滲んでいた。
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