第3話 新しい酒の試作と失敗!
「ついに来たわよ、新作酒の時間!」
カウンターに描いた魔法陣が淡く光り、その光が琥珀色の液体に反射する。見ているだけで胸が高鳴る。これは絶対に傑作になる――そんな予感しかない。
「さぁ、これが最新作! 絶対に最高の一杯よ!」
もちろん、そんな私のテンションを見逃すはずがないのが、この酒場のいつものメンバー。
「またかよ。今度は俺を巻き込むなよな。」
茶化しながらカウンターに腰を下ろしたのはフォルク・ストランド。
この冒険者、日焼けした肌にくしゃっとした茶髪、冒険者の風格はあるくせに、どこかお調子者感が抜けない。まあ、それが彼のいいところでもあるんだけど――今日は黙っててほしい。
「うるさいわね! 今回は自信作なの! 文句があるなら黙って飲みなさい!」
琥珀色の液体をグラスに注ぎ、誇らしげに掲げた。
「その名も、『ミスティック・ドリフト』! 飲むたびに風のような爽やかさと花の香りが広がる、魔法酒の傑作よ!」
注ぐと同時に、ラベンダーの優雅な香りが店内を包む。次に感じるのはシトラスの爽やかさ、そして深いスパイスの香り。完璧な調和。私の最高傑作、ここに完成!
「へえ、また変なの作ったな。」
カウンターの隅で尻尾を揺らしていたドラコが顔を上げる。
「その魔法樽、今回も使ったのか?」
「もちろんよ! この樽なしで最高の一杯なんて作れるわけないじゃない。」
ドラコは怪訝そうに樽をじっと見つめるけど、気にしてる暇はない。私は自分の完成品を確かめるべく、一口含む。
――花畑を歩いてるみたい! ラベンダーの香りがふわっと広がり、次にミントの清涼感、最後はスパイスの温かみが余韻として残る。まさに傑作!
けれど、その喜びは飲み込んだ瞬間、ふわっと頭に回る感覚でかき消された。
え、ちょっと待って、これ濃すぎじゃない? 頭がぐるぐるしてきたんだけど――
「…濃すぎたわね。」
気づけばカウンターに突っ伏していた。
「だから言っただろ。お前、酒弱いくせに濃いの作りすぎなんだよ。」
呆れ顔でグラスを手に取るフォルクの声が聞こえる。
「でも香りは悪くないな。俺にも一口――」
そのグラスを横から豪快に奪ったのは、やっぱりドラコ。
「待てよ、人間。まずは俺が試す。」
そして、ためらいもなく一気に飲み干す。
「おい、俺の分が……」
フォルクが文句を言う間もなく、ドラコは尻尾を満足げに揺らして言った。
「悪くねえな。でも、ちょっと刺激が強すぎる。」
その時、扉のベルが鳴り、常連の冒険者たちが次々と入ってきた。
「リリィ、今日は新しい酒あるか?」
「もちろんよ! 新作よ、『ミスティック・ドリフト』!」
意気揚々とグラスを注ぐ私を囲み、冒険者たちがグラスを口に運ぶ。
「おおっ! 香りが変わる!」
「これ、すごい! 甘いのに、後からスパイシーだ!」
彼らの歓声に胸を張る。私、やっぱり天才じゃない?
でも、ドラコの視線が魔法樽から離れないのが気になる。
「おいリリィ、その魔法樽、本当に“魔法”なんだよな?」
「当然よ! それが『酔いどれ亭』の秘密兵器なんだから。」
その瞬間、ドラコの目が光った。嫌な予感しかしない。
「試してみないとわからねえよな?」
「ちょっと、待って! ドラコ、やめ――!」
次の瞬間、ドラコが樽に突進。
ドンッ!
樽が揺れ、蓋が吹き飛び、勢いよく泡が噴き出した。
ボンッ!
店内は一瞬で泡まみれ。冒険者たちが大騒ぎする中、私は叫んだ。
「ドラコ! あんた、何してくれてんのよ!」
泡を払いながらドラコがにやりと笑う。
「いいじゃねえか。これぞ本物の“魔法酒場”だろ?」
「“魔法酒場”じゃなくて“大惨事”でしょ!」
笑い声と泡に包まれる店内。その光景を見て、私はため息をつきながら誓う。
「次こそは、絶対に完璧なお酒を作ってやるんだから!」
そして、笑顔でまたグラスを磨き始めた。
─
その背後で、店の外に黒いフードを被った男の影が動く。
「やはり、あの魔法樽には特別な力がある…次の機会を待つか。」
リリィが気づかぬうちに、闇は蠢き始めていた。
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