第21話 九割引の怪しい酒
夕暮れの酔いどれ亭。
私はカウンターで新作カクテルの仕上げに集中していた。
「うーん、もうちょっとレモングラスの香りを強くして…」
最高の一杯を目指して、細かく味を調整していたその時。
バンッ!!
店の扉が乱暴に開かれ、カウンターに酒瓶が叩きつけられた。
「リリィ!!助けなさい!!!!!」
勢いよく現れたのは酒商人ジーナ・ロスティア。いつもは冷静沈着な彼女が、今日は珍しく焦った顔をしている。
「ちょっ、何よ!?いきなり!!」
「九割引よ!!!」
「…は?」
「この酒、九割引で仕入れたの!!」
「…で?」
「不味いのよ!!!!」
「なんで味見しないで仕入れたのよ!!!」
ジーナは、まるで大損したギャンブラーみたいな顔で、ガクッと肩を落とした。
「だ、だって九割引よ!?そんなお得な話、断れる!?」
「断れ!!!」
「だから、アンタの店で使いなさい!」
「絶対に嫌!!!」
「じゃないと、私の倉庫が酒瓶で埋まるのよ!!!」
「知らないわよ!!!」
仕方なく、私はその問題の酒を試しに口に含んでみる。
「…」
「…どう?」
「まずい!!!」
「やっぱり!?!?」
「何なのこれ!?苦いのに甘い!甘いのに渋い!酸っぱいのに味が薄い!」
「情報量が多すぎるわよ!!」
「一体どこの何なのよ!!!」
「えーと、ラベルには…『汎用ベースリキュール』って書いてあるわね。」
「本当に!?!?」
さすがにそのままじゃ飲めたもんじゃない。
「よし…ここは酔いどれ亭の意地を見せてやるわ!!」
「え?リリィ、何するの?」
「この酒を、美味しくする!!!」
まずは香りの調整。エルフの森で採れるハーブを贅沢に投入し、上質な花蜜を加える。樽のクセを中和しつつ、全体にまとまりを出すため、じっくりと攪拌。
「おお、ちょっとマシになった…?」
でも、まだ後味が微妙にエグい。
「ならば、柑橘よ!!」
オレンジやレモンを絞り、フレッシュな酸味を加えていく。
「…お!?ちょっと爽やかになった!!」
よし、あと少し。元の酒が濃すぎるせいでバランスが崩れてるから、ジュース割りにして調整だ。リンゴジュースやグレープフルーツジュースで割ると、ぐっと飲みやすくなった。
「これなら…もしかして、いけるんじゃ!?」
カウンターにいたフォルクとドラコが興味津々にグラスをのぞき込んでくる。
「おい、試しに飲ませてくれよ。」
「俺も!なんか面白そうだし!」
「いいわよ、飲んでみて!」
フォルクがひと口。
「…お?」
ドラコがごくり。
「…うめぇじゃん!」
「マジで!?!?」
「ちょっと爽やかで、ほのかに甘くて…なんかジュースみてぇに飲みやすいな!」
「いや、これ普通にアリだぞ!」
結果、店の客たちも興味を示し、試しに提供してみることに。
「おお!?なんだこれ、意外といけるじゃねぇか!」
「さっぱりしてて飲みやすい!」
「ジュースみたいだから、ついつい飲んじゃうな!」
なんと、まさかの大ヒット。
「売れる…売れるわよ、これ…!!!」
ジーナの目がキラキラと輝く。
「これはもう、新商品として売り出せるレベルよ!!!」
「え、ちょっと待って、でもこれ元々は――」
「酔いどれ亭発のオリジナルカクテルとして売る!」
「ちょ、私の店の名前を使わないで!!!」
「すでにラベル発注したわ!!」
「やめてえええええええ!!!」
こうして、ジーナの仕入れミスは思わぬ形で大成功となったのだった。
…そして数日後。
「ねぇ、ジーナ?」
「なに?」
「次の仕入れは、どうするの?」
「また別の九割引のお得なもの、見つけたの!」
「やめとけえええええええ!!!!」
酔いどれ亭の夜は、今日もドタバタと更けていく――。
ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
@chocola_carlyle




