第2話 隣の肉料理店との対決!
「やっぱり最高ね! 私の『酔いどれ亭』は、お酒とつまみでみんなを幸せにする魔法の場所よ!」
カウンターの内側から店内を見渡す私の手には、磨き上げたばかりのグラス。棚には冒険時代に集めた魔法酒や珍しい酒瓶が並び、木の温もりが感じられるテーブルや椅子、隅っこで丸くなったドラコの姿まで――この風景、見てるだけで一杯飲めそうなくらいお気に入り。
でも、そんな幸せな空間に乱入者が現れるのは、もはやお約束。
「おい、この店が植物のつまみで客を喜ばせてるって噂の『酔いどれ亭』か?」
重厚な声に振り向くと、入口には筋骨隆々の男が立ちはだかっていた。その背後には手下らしい連中がズラリと並んでいる。全員、包丁やフライパンを手に構えた姿が妙にシュールだけど――え、なに? 乱闘する気じゃないわよね?
「俺の名前はレオ。隣の肉料理店を仕切ってるもんだ。ここいらじゃ俺たちの肉料理が一番だって評判でな。」
腕を組んでニヤリと笑うその顔、完全にケンカ売ってきてる。
「へぇ、それで? 『酔いどれ亭』に何のご用かしら?」
私は軽く肩をすくめながら、グラスをカウンターに置いた。
「植物のつまみが評判らしいが、所詮は草だろ? 本当に酒に合うのは肉料理だけだ!」
その瞬間、店内の空気がピリッと張り詰める。カウンターで飲んでいた冒険者たちも手を止め、興味津々にこちらを見ている。
草、ですって? ふふっ、言ってくれるわね――。
「面白いじゃない。だったら勝負しましょう。あなたの肉料理と私の植物系つまみ、どっちが酒に合うか。お客さんに判定してもらうわ!」
レオは口元を歪めてニヤリと笑う。挑発に乗ったわね、いいわ、望むところよ!
レオは厨房に直行すると、いきなり巨大な猪肉を持ち出してきた。山の恵み「グレイトボア」の肉。力強い味わいと歯ごたえが自慢の一品で、冒険者たちに大人気の定番食材。
「これが俺たち自慢の『グレイトボアのハーブロースト』だ! 香ばしいハーブの香りと肉汁たっぷりのこの一皿、酒が進むこと間違いなしだぜ!」
ジュウジュウと焼ける音が店中に響き、香りがたちまち広がる。冒険者たちの間から歓声が上がり、すでに食べたがっている顔ばかり。
焼き上がった肉は黄金色の焼き目に、緑のハーブが彩りを添えている。タレの甘辛い香りに誘われ、私の胃袋も少し反応しちゃった――けど、負けるわけにはいかない!
私もキッチンに入り、対抗する一品を準備。今日の勝負に選んだのは、「魔法キノコの燻製」。ルミナリーファンガスという、深い森でしか採れない珍しい光るキノコが主役。スモーキーな香りと自然の甘みが特徴よ。
魔法樽を使ってじっくりと燻すと、甘く香ばしい香りが広がる。その香りを嗅いだ冒険者たちが一斉に鼻をヒクヒク。
「なんだ、この香りは……!」「すげえ、早く食べてみたい!」
お皿に盛りつけたキノコは、黄金色に輝きながら、ほのかな光を放っている。噛むとジュワッと広がる旨味とスモークの香り――これぞ植物系つまみの真骨頂。
冒険者たちはそれぞれの料理を試し、投票の結果が出た――。
「結果は――『魔法キノコの燻製』の勝利!」
レオは悔しそうに頭を掻いているけど、こればっかりは仕方ないわね。酒に合うのは豪華さじゃなく、奥深い味わいと香りのハーモニーなのよ。
「くそっ、草に負けるなんて……!」
その時、カウンターの隅にいたドラコがのっそり動き出した。
「おい、こんなうまそうなもん、俺が食べないでどうするんだよ!」
「ちょっと、ドラコ、それはお客さんの分――!」
止める暇もなく、燻製キノコは彼の大きな口に消えていく。満足げに尻尾を揺らすドラコを見て、店内が大爆笑に包まれた。
「お前の勝ちだよ。認めるよ、あんたのつまみ、確かに一流だ。」
レオが差し出した手を握り返しながら、私はニッコリ微笑む。
「ありがと。でもね、私の目標はただ一つ――お酒とつまみでみんなを笑顔にすること。それだけよ!」
店内では新たな乾杯が始まり、笑顔と笑い声が響き渡る。『酔いどれ亭』は、今日も最高の夜を迎えたのだった。
─
そしてその外――。黒いフードを被った男が『酔いどれ亭』をじっと見つめていた。
「やはり、魔法樽はここに…。準備を急げ。」
リリィの知らないところで、闇が静かに動き始めていた。
ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
@chocola_carlyle