第19話 魔法の仕立て屋
夕暮れ時、店内は『妖精の朝露』の爽やかな香りに包まれていた。
翡翠色のリキュールに、微細な銀の泡が弾ける、まるで朝霧が舞う森の小川みたいなカクテル。摘みたてのレモングラスとミントの清涼感が鼻をくすぐり、ひと口含めばスパークリングハーブの微発泡が舌の上で優しく弾ける。後味には白桃のやわらかな甘みが残り、グラスの縁に塗った魔法蜂の花蜜がほのかに花の香りを添える。朝陽のように清々しく、それでいてほんのり甘く酔わせる――完璧な一杯。
「ふふっ、私ってば天才ね!」
うっとりと自画自賛しながら、カウンターに並べたグラスを眺めていたその時――
「おお、リリィさん!!そのエプロン!!何という赤!!燃え盛る夕焼けの残光のごとき美しさだ!!!まさに、勝利の色!!!」
――来た。
魔法仕立て屋 ダリオ・スレッドローク の 「エプロン賛美会」 開幕。
いやいや、これはただの仕事着なんだけど!?
「リリィさん、この僕が特別に仕立てたエプロン『魔法の華影』をぜひ試してくれ!
着る人の魅力を 五割増し させる究極の逸品なんだ!」
「は!?なんでそんな効果ついてんのよ!?いらないわよ!」
「リリィさん、そんな冷たいこと言わずに!ほら!袖を通せば、一瞬で美の化身に!!」
ダリオの目がキラッキラに輝いていて、まぶしいったらない。
ちょっと待って、いま忙しいのよ!?
「ダリオ、私はこれで十分なのよ。この赤、私らしいでしょ?エプロンは機能性が大事なの!」
そう言って断ったつもりが、彼の中で スイッチが入っちゃった みたい。
「いえ、リリィさんには、もっと華やかさが必要です!!」
どこからともなく金と銀の布を取り出すと、目の前で 縫い始めちゃった のよ! お客さんたちは「また始まったか」と笑い出し、ドラコに至ってはカウンターでスパイス漬けの月の実チップスをもぐもぐしながら呆れ顔。
「リリィ、もう観念しろよ。」
「絶対に嫌!」
でも、私の意思とは関係なく、完成したエプロンが空中でふわりと広がった。
――おお、思ったより可愛いデザインじゃない? って違う!!
「リリィさん!さあ、試着を!」
「いや!!!」
私は反射的にカウンターを飛び越えて逃げる!が、エプロンはまるで意思を持っているみたいに 追いかけてくる!
「待って待って待って!?なんでエプロンに追いかけられなきゃいけないのよ!?」
「リリィさん!!これが真の仕立て魔法です!!」
「そんな魔法いらない!!!」
店内のカオス度がマックス。そのうち、エプロンはお客さんのテーブルを飛び回り、グラスを倒し始めた。ついには、さっき作った妖精の朝露まで被害に!!翡翠色のカクテルが床にぶちまけられ、白桃とレモングラスの香りが広がる。
「あああああっ! 私の新作がぁぁぁぁ!!!」
ついに私は ドラコの尻尾を掴んでエプロンを捕獲する作戦 に出た。
「おいおい、俺の尻尾を勝手に使うな!」
「うるさい!今、それどころじゃないの!」
――そしてついに、私は、というかドラコがエプロンをガシッと捕獲。
「ダリオ…。」
「はい、リリィさん!いかがでしたか、僕のエプロンの魅力は?」
「没収。ついでに掃除手伝ってもらうわよ?」
「ええ!?でも、リリィさんがもっと輝くための――」
「掃除しないなら、この店に二度と入らせないからね!!」
「そ、そんなぁぁ!!」
泣く泣くモップを握るダリオの背中を見ながら、私はため息をつく。こうして、今日も酔いどれ亭は嵐のような一日を迎えたのでした…。ちなみに没収したエプロン、後で見たら意外とかわいいデザインだったのよね。ちょっと気が向いたときに使ってみようかな…なんて、これはここだけの話。
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