第18話 ワインと怪しい冒険者!
夕暮れ時、酔いどれ亭の店内には芳醇な酒の香りと、月光トリュフの豆バターソテーの濃厚な香ばしさが漂っていた。しっとりと熟成されたトリュフを、エルフ特製の豆バターでじっくり炒め、仕上げにオークの樹液酒をほんの一滴。噛めば口いっぱいに広がる旨味と、かすかに甘くとろける香り。それをカリッと焼いた森の実パンにのせれば、極上の味わい。常連たちはゆったりとグラスを傾け、満足げにそれをつまんでいた――はずだった。
「リリィ!いつもの頼む!」
店の扉が勢いよく開かれ、ズカズカとカウンターに向かってきたのは、冒険者セシル・ホワイトヘイル。
「蹴るな!!!!!」
私が怒鳴るも、当の本人は悪びれる様子もなく、ニヤリと笑いながら椅子に腰を下ろす。いかにも「俺は常連だぜ」と言わんばかりの態度だが――この男には、ちょっとした噂があった。
「なぁリリィ、アイツって本当にただの冒険者なのか?」
カウンターの奥で酒をちびちびやっていたフォルクが、こっそり囁く。
「なによ、急に?」
「いや、この前さ、アイツ酒飲みながら『この街も発展したな』って呟いてたんだけどよ」
「普通に言いそうじゃない?」
「でもさ、『王城の晩餐会の酒より美味い』とも言ってたぞ?」
「…おかしくない?」
王城の晩餐会の酒を知ってる時点で、ただの冒険者じゃない気がする。
「さて、今日は何にする?」
「うーん…そうだな、エンシェントワインはあるか?」
今、こいつ何て言った?
「エンシェントワインって、百年以上熟成された超高級ワインよ?」
「ああ、知ってる。」
知ってる!? 普通の冒険者はそんなの知らない!!
「おいセシル、お前本当にただの冒険者か?」
「は? 当たり前だろ?」
「いやいや、普通の冒険者はエンシェントワインなんて注文しないの!!」
「…あっ」
「ほら見ろ!!やっぱり貴族だろ!!!」
「違う違う!ちょっと聞いただけだ!!!」
「じゃあ、どこでそんな話を聞いたのよ!」
「…ええと…昔の知り合いが王城の酒蔵で働いていてな?」
「それ、余計に怪しいわ!!!」
すると、セシルはニヤリと笑いながら、鞄をゴソゴソと探り出す。
「まぁまぁ、そんなに騒ぐなよ。」
ボトン。
「…なによ、それ。」
「エンシェントワインの一本さ。」
「はああああああああ!?!?」
「ちょっと待て!! そんなワインを普通に持ってるとかおかしいだろ!!!」
「いやいや、偶然手に入っただけだよ?」
「そんな偶然あるか!!!!」
客たちが一斉に詰め寄るが、セシルはいつもの涼しい顔でワインの封を開けた。 途端に、店中に広がる甘美な香り。熟成された果実の濃厚な芳香に、奥深い樽の香りが混じり、どっしりとした余韻が鼻腔をくすぐる。一口飲めば、時を越えた味わいが舌を包み込むんだろうな…くぅ、飲みたい!!
「…すごい香り。」
「だろ?」
セシルは余裕たっぷりにワインをグラスに注ぎ、一口含む。
「…ふぅ、やっぱり格別だな。」
「やっぱり王族だあああああああ!!!!」
「違うってば!!!」
まぁ、本人が違うって言うなら、それ以上は突っ込まないけど…。
「リリィ!!」
扉が乱暴に開かれ、ジーナ・ロスティアが駆け込んできた。
「なによ?」
「王城御用達のエンシェントワインが市場から消えたのよ!!」
「…え?」
「それがどうも、王族の誰かが大量に買い占めたって噂があってね…」
私はゆっくりとセシルの方を見る。
セシルは笑って、グラスの中のワインをクルクルと回していた。
「…なぁ、セシル?」
「…なんだ?」
「…今、飲んでるそのワイン、まさか…?」
「…さぁ?」
「お前絶対何か隠してるだろぉぉぉぉぉ!!!!」
客たちが詰め寄るも、証拠はない。セシルはただの冒険者なのか、それとも…。こうして今日も、謎は謎のまま終わるのだった。
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