第16話 ドラゴンスレイヤー!見参!
今日も酔いどれ亭は大盛見参
ハーブの香りが立ちのぼるエルダーフラワーのムース、甘酸っぱい月光ベリーのコンポート、パリッと焼き上げたマジックパンプキンのローストがテーブルを彩り、客たちは上機嫌で酒を楽しんでいた。スパイスの効いた琥珀樹の樹液酒を片手に、常連たちが陽気に語り合う。最高の夜――のはずだった。
「この店に…ドラゴンがいると聞いたが。」
バァァン!!
扉が勢いよく開き、鋼の鎧をまとった屈強な男が立っていた。銀の長剣、体に刻まれた無数の傷痕、そしてその背にはドラゴンの鱗が埋め込まれたマント。
「…なんかヤバそうなやつ来たな。」
「うん、絶対に厄介ごとよ。」
私はため息をつきつつ、男の名を聞いた。
「俺の名はガルヴァス。世界の七大ドラゴンの鱗を狩る者。」
「ドラゴンスレイヤー!?」
「え、ここに来る理由なくない!??」
常連たちがざわめくなか、ガルヴァスが店を見渡し、腕を組んだ。
「この店には“ドラゴン”がいると聞いた。俺はそいつの鱗をもらいに来た。」
全員の視線が……ドラコに向いた。
「おいおい、マジかよ。」
「ドラコの鱗、コレクション入りか!?」
「ていうか、そもそもドラコってそんなすごい存在だったっけ……?」
「おい待て、お前ら!!!」
ドラコがバン!とテーブルを叩き、店の中央に立つ。
「…なるほどな。」ガルヴァスはドラコを見下ろしながら、冷ややかに笑った。
「だが…貴様をドラゴンとは認めん。」
「は?」
店内の空気が凍る。
「…今、なんつった?」
ガルヴァスは無造作にマントを翻し、鱗を見せつける。
「俺が追い求めるのは世界の七大ドラゴン。大地を揺るがす炎、天空を覆う嵐、海を支配する覇王…そんな伝説級の竜の鱗だ。」
「お前のような…小さな看板ドラゴンなど、その名に値しない。」
シーーーン……
客たちが気まずそうに顔を見合わせる。
「いやいや、ガルヴァスさん…言いすぎじゃない?」
「ドラコ、ほら、いつものように適当に受け流して――」
「…はぁ?」
ドラコが、静かに立ち上がる。
「おい、今なんつった?もう一回言えよ。」
「ふん、何度でも言ってやろう。貴様など、ドラゴンの名に値しない――」
「なら見せてやるよ。」
店の空気が…一変した。
「が、ちょっと待ってな」
そう言ってドラコはカウンターの後ろに入り、がさごそと何か準備をしてから舞い戻る。何やってるのドラコ?
「俺が本気を出せば、伝説級のドラゴンにも負けねぇってことをな。」
ドラコの周囲に、淡い光が瞬き始める。
次の瞬間――
「バブルラッシュ!!」
ドラコが大きく息を吸い込み――
店内に、無数の泡が吹き荒れる!!
「なんだこれ!?」
ガルヴァスは剣を構えるが、泡が次々と炸裂し、視界を奪われる!
しかも…泡が弾けるたびに、甘く芳醇な香りが漂う。
「な、なんだこの酒くさい泡は!?!?」
「へへっ、うちの店特製の月光ラムのバブルラッシュだぜ!」
「くそっ!」
ガルヴァスが泡に翻弄され、バランスを崩す。
そして――
ドンッ!!
…あっさり床に転がった。
「…負けた…だと?」
ドラコはニヤリと笑い、前足を組む。
「どうだ?俺をドラゴンと認めたか?」
「ぐ…!」
ガルヴァスは悔しそうに歯を食いしばるが、やがてゆっくりと起き上がり――
「…ふっ…なるほどな。気に入ったぞ。」
ニヤリと笑い、ガルヴァスはカウンターに座る。
「酒をくれ。」
「え、もうそういう流れ?」
「今夜は敗者の杯だ。…だが次は、もう少し手加減はしないぞ。」
ドラコは勝ち誇ったようにニヤリと笑い、グラスを掲げる。
「次があるならな!」
こうして、ドラゴンスレイヤーと看板ドラゴンのバトルはラムの香る泡の圧勝で幕を閉じた。
――しかし。
「ねぇ、ドラコ?」
「ん?なんだ?」
「さっきのバブルラッシュ、やたらとラム酒の香りがしてたわよねぇ?」
「おう、そうだぜ!俺特製の“月光ラムのバブルラッシュ”ってな!」
「それ、どうやって作ったのかしらぁ~~???」
「そりゃあ……」
ドラコが自慢げに腕を組む。
「店の在庫のラムを、ぜ~~~んぶ飲んで吐き出した!」
「…」
「…ぜんぶ?」
「おう!めっちゃ濃厚にするためにな!!!」
カウンターの奥で、何かが軋む音がした。
「ドラコオオオオオオオオ!!!!!」
バンッ!!!!
私の拳がカウンターを叩き、店全体がビリッと震えた。
「…このバカドラゴン!!!」
店内の客たちが、サッと距離を取る。
「うわぁ、完全に怒らせたな…」
「お、終わった…ドラコの命が…」
「お前、勝手に店の酒を飲み干すってどういうつもり!?!?」
「だ、だってバブルラッシュにラムの香りが必要だったんだよ!!」
「そんなの、作る前に言いなさいよ!!」
「でも、そうしたらお前許可しねぇだろ?」
「するわけないでしょ!!!!!!」
こうして、看板ドラゴンはラムの代償により 給料から更に天引きされることになったのだった。
─
「ドラゴンスレイヤーがあの看板ドラゴンを片付けていれば、我らの障害がひとつ消えたものを……惜しい。」
店の外れ、闇に紛れた影がじっと酔いどれ亭を見つめ、低く囁いた。
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