第15話 闇の呪術にご注意を!
夕暮れ時の酔いどれ亭。 カウンターで新作のお酒の仕上げを考えていると、オレンジ色の光が店内に差し込み、酒瓶が美しく輝いていた。ほんのり甘い樽の香りと、外から聞こえる街の喧騒が心地よく混ざり合う。
――そんな穏やかなひとときを、ぶち壊す音が響いた。
バァン!!
勢いよく開いた扉の向こうに立っていたのは、見るからに怪しい呪術師、ゼブル。肩には怪しげな巻物を何本も抱え、目をギラつかせている。
「…また何か面倒ごとが来たわね…」
私はため息をつきながら振り返る。
嫌な予感しかしない。
「リリィ!今日は究極の呪術を完成させるために君の力を借りに来た!」
「また?うちを研究所と勘違いしないでよね。」
そう言いつつも、私もつい乗せられてしまうのよね。だって今日は、新作の「コーラルフレア・リキュール」を完成させようとしてたところなんだから。
このリキュール、海の乙女たちが秘密の祭りで飲むという伝説がある、ピンクと赤が混ざり合った美しいお酒なのよ。珊瑚の形をした特製グラスに注ぐと、光が反射してグラスの中で波が揺れるように見えるのがポイント。甘みのあるフルーツリキュールをベースに、ほのかな塩味がアクセントとなり、まさに「海の神秘を体験して!」って感じの一杯。
「で、何をしろっていうの?」
「この呪術、あと一押しが足りないんだ。きっと君のお酒が鍵になる!」
そう言いながらゼブルは怪しい粉末を取り出し、私の新作に向けて振りかけようとする。
「ちょっと待って!勝手に混ぜないで!」
慌てて止めようとしたけど、もう遅い。ゼブルは粉末をバサッとリキュールに投入。瞬間、グラスが淡い光を放ち始めた。あら、案外きれい…なんて思ったのも束の間、突然その光が爆発的に拡大し、店全体がまるで水中にいるような雰囲気に変わった。
「えっ…これ何?」
壁や天井には波の模様が映し出され、空気がしっとりと湿り気を帯びている。そして、棚から落ちたグラスが宙に浮いたかと思えば、まるで生き物みたいに泳ぎ始めた。
「ゼブル!これ、どうするのよ!」
「おお、これは…呪術が暴走して空間が変異したのかもしれん!」
「知ってるなら止めて!」
その間にも、客たちは「おい、水の中にいるみたいで息苦しいぞ!」と慌てふためき、ドラコは尻尾を振り回しながら「これ俺の羽が湿気でへたるだろ!」と叫んでいる。
「落ち着いて!これはただの…多分、一時的な現象だから!」
必死に声を張り上げるけど、目の前でグラスが踊り出すのを見たら、私も動揺せずにはいられない。
「よし、これで解除できるはずだ!」
ゼブルが再び巻物を広げ、呪文を唱え始める。が、またしても失敗。今度は空間にポンポンと泡が浮かび始め、泡が弾けるたびに店の中のものがテレポートして位置が入れ替わる。カウンターの椅子は壁に張り付くし、天井のランプはテーブルの上に落ちてくるしで、もうめちゃくちゃ!
「もう!早く何とかして!」
ついに我慢できなくなった私は「コーラルフレア・リキュール」の完成版を持ち出し、冷え冷えに冷やしてゼブルの顔面にぶっかけた。
「ちょっ、冷たい!」
呪文が中断された瞬間、空間の異常がピタッと止まり、店は元の状態に戻った。あぁ、やれやれ。
「ほら、もう帰って!次はちゃんと計算してから来なさいよ!」
ゼブルはびしょ濡れの顔で「いや、これも貴重な学びだ!」と言いながら、巻物を片付けて意気揚々と店を出て行った。
店がようやく静けさを取り戻し、私は大きくため息をつく。ドラコがぼそっと言った。
「いいか、リリィ。次来たら最初にあいつの巻物燃やしてやれよな。」
「それが正解かもね…」
けれど、また来るのがわかってるのが面倒なのよね。はぁ、こんな調子じゃ落ち着いて新作に集中できないわ!
─
薄闇の中、黒装束の男が静かに言葉を漏らした。
「…呪術か。我らの戦術にも組み込める可能性があるやもしれん。」
隣にいた者が眉をひそめる。
「だが、扱いを誤れば我々自身に牙を剥く危険もある。慎重に研究すべきだろう。」
闇の中で、影たちは無言のまま頷き合った。
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