表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酔いどれエルフと酒の歌  作者: チョコレ
第一杯 酔いどれ亭、大騒ぎ!
14/144

第14話 美食屋は厄介だ!

 宵闇が迫る酔いどれ亭。 いつもより静かな夜、珍しく客足もまばらで、酒瓶を拭く手がゆったりと動く――そんな穏やかな時間が、ドカン!! という轟音とともに粉々に砕かれた。


 扉が勢いよく開き、冷たい夜風が店内に吹き込む。その瞬間、背筋に嫌な予感が駆け巡る。こういう時に限って、厄介なのが来るのよね……。


 振り返ると、そこに立っていたのは大柄な男。立派な口髭に、分厚いグルメガイドを片手に持ち、まるで自分が主役だと言わんばかりの堂々たる態度で 店内へと踏み込んでくる。


 「やぁ、ここが噂の『酔いどれ亭』か! 大陸一の美食家、ロウレン・ガストロがついに降臨したぞ!!」


 店中に響き渡る大声。


 いやいや、降臨って何よ。神か何かのつもり!?


 カウンターに座るフォルクとドラコがチラッと顔を見合わせる。

 その表情は、「ああ、また面倒なのが来たな…」 という、諦めと達観が入り混じったものだった。


 ロウレンはカウンターの椅子にどっかり腰を下ろす。店内にいたジーナがチラリと鋭い視線を向けながら呟いた。

「また厄介そうなのが来たわね。」


「さて、何を注文するんだ?」

 私は半ば面倒くさそうに聞くと、ロウレンは手を振りながら豪快に笑った。

「いやいや、注文など不要だ!出されたものをそのまま味わう。それこそが真の美食家の流儀だ!」


 …いや、じゃあ帰れよって言いたいのをぐっと堪える。仕方なく、棚から『エルダーフラワーとスパイスの焼き実』を取り出し、カウンターに出した。香ばしく焼き上げたナッツに、エルダーフラワーの甘みと特製スパイスをまぶした自信作だ。


 ロウレンは一粒口に入れると、突然大きなリアクションを取ってグルメガイドを開き始めた。そして何かを書き込みながら顔を上げ、こう言い放つ。

「香りは良い。しかし、甘みに対して酸味がやや足りないな。それにスパイスの後味が少々弱い。」


「は?」

 私の顔が引きつる。ジーナが冷たい視線を向けながら口を開く。

「この店の味にケチをつけるなら、他の店に行ったらどう?」


 一瞬たじろぐかと思いきや、ロウレンは得意げに笑った。

「いやいや、これはケチではない!味の分析だ!」


「分析?ただの嫌味じゃないの?」

 フォルクが肩をすくめながら言う。ドラコは尻尾を揺らしながら「あーあ、始まったよ」と小声で呟いた。


 そのやり取りを聞きながら、ふと棚の奥にある瓶に目をやった。「あっ、隠し味忘れてた!」私は慌ててドライベリーパウダーを取り出し、ナッツにふりかけてもう一度差し出した。


 ロウレンは慎重に一粒口に入れる。そして――。


 「なんだこれは! この甘みと酸味の調和、まるで交響曲のようだ!!」


 感動のあまり、ロウレンは勢いよく立ち上がり、胸を張って腕を振り上げた。


 その瞬間――バサァッ!!彼の袖が隣のテーブルのランプに引っかかり、それがフォルクのビールジョッキを直撃。勢いよく弾かれたジョッキは回転しながら宙を舞い――ドボォン!!


 ジーナの膝の上に、豪快に着地した。


 「ぎゃあああああああ!! 冷たいっ!!!」


 びしょ濡れになったジーナが慌てて立ち上がった弾みで、テーブルに肘をぶつける。ガシャン! ナッツの皿が飛び跳ね、ナッツは天井へと舞い上がる。


 「うおっ!? くそっ、どこ行った!?」


 ドラコがナッツを目で追いながら立ち上がった瞬間――カツン!ちょうど頭の上を飛んでいたナッツが、彼の角に絶妙な角度でぶつかる。まるで弾かれたボールのように飛び、カウンターの棚に一直線。


 カタカタカタ……ゴトン―― バリン!!!そこにあったワインボトルが耐えきれずに棚から滑り落ち、床に派手な音を立てて砕け散った。


 「ちょっと!! 何やってんのよ!!?」


 リリィが叫ぶが、ロウレンはどこ吹く風。


 「いやはや、これは壮大なハプニングだった! しかし、この店にはただの食事以上の劇場がある!!」


 フォルクは呆れた顔でビショビショのジーナを見て、肩をすくめる。


 「お前、グルメガイドじゃなくて劇評でも書いたらどうだ?」


 「いやいや、それは違う! 美食とは、まさに劇的な体験なのだ!!」


 ロウレンは愉快そうに大笑いし、散らばったナッツの中から一粒を拾って口に放り込む。


 「…うむ、このナッツの香ばしさは絶品! この瞬間をグルメガイドに記録しよう!!」


 そう言い残し、満足げに去っていった。


 ――店内には、割れたグラス、ナッツの散乱、びしょ濡れのジーナ、そして呆れ果てた私たち。


 私は深いため息をつきながら呟いた。


 「ほんと、二度と来ないでほしいわ。」


 ジーナは濡れた服を絞りながら、静かに同意する。


 「こんなに後始末が面倒な客、他にいないわよ…。」


 フォルクが片付けながら苦笑する。


 「いや、また来るだろうな。次は何かもっと変な食べ物を求めて。」


 こうして、一騒動は幕を閉じた…はずだった。だが数日後、さらに分厚いグルメガイドを抱えたロウレンが、誇らしげに店の扉を開ける。


 「リリィよ!! 新たな美食の探求に来たぞ!!!」


 お願いだから、今度こそ静かにしてよ…


 ─


 魔法樽を狙う一派の影は、店の様子をじっと観察していた。「面倒なことになった…。グルメガイドに載ったとなれば、客足は確実に増える。その中に魔法樽の存在に気づく者が現れるのも時間の問題だ…。早急に手を打たねばならん…」

ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ