第13話 港町の大酒祭りで勝負!
「リリィ、準備はいいか?」
フォルクが大きな荷物を抱えながら店の扉を押し開けて入ってきた。
「もちろんよ! 今日の大酒祭りは酔いどれ亭の名をさらに広める絶好のチャンスなんだから!」
私はカウンターの奥から勢いよく飛び出し、ワインレッドのエプロンをきゅっと締め直した。今日はどうしても成功させたい特別な日。
それを証明するように、里を出るときに持ち出した世界樹の葉を編み込んだ冠をそっと頭に載せる。冠の柔らかな輝きは、あの緑豊かな故郷の景色と、空に届くほどの美しい世界樹を思い出させてくれる。エルフの誇りを込めて、この「エルフの涙」を届けるのよ。
今日は港町カルムスで開催される「大酒祭り」。あらゆる酒造業者が集まり、自慢の酒を披露する一大イベントだ。もちろん、酔いどれ亭も負けていられない。
「ジーナ、あんたの準備は?」
「完璧よ。」
ジーナが慎重にカートから取り出したのは、淡い青緑色に輝く球状のガラス容器。瓶というより、魔法具と呼ぶ方がしっくりくる見た目。容器の中では液体がゆっくりと回転し、表面に浮かぶルーン文字がまるで生き物のように光を放っている。
「これが新作、『ルーン・エール』よ。注がれるときに魔法が発動して、グラスごとに味が変わるの。」
ジーナは涼しい顔で説明すると、容器の上部に取り付けられた魔法の栓を回し始めた。
「ちょっと待って。その栓、なんか光ってない?」
私は目を凝らすが、ジーナはさらりと答える。
「これは特殊な魔導工房で作ったものよ。注ぐ瞬間にルーンが液体にマナを付与して、味に変化をもたらす仕組みなの。」
彼女の手際の良さに感心しながらも、値段が気になる。
「へぇ、さすがジーナね。見た目からして高そう…って、いくらしたの?」
そう尋ねると、ジーナは肩をすくめて笑った。
「それは秘密。でも、これで客を引き寄せられるなら安いものよ。」
港町カルムスに着くと、すでに祭りは大盛況だった。海風に乗って漂う香ばしい酒の香り、試飲を楽しむ人々の笑い声。私たちは目立つ場所に屋台を設置し、特製の看板を掲げる。
「よし、リリィ。呼び込みは俺に任せろ!」
フォルクが看板の前に立ち、胸を張って声を張り上げた。
「ここに集まれ! 酒ギルドに勝った店が世に送り出す新作だ! エルフの涙を飲めるのは酔いどれ亭だけだぞ!」
彼の言葉に、通りかかった客たちが興味津々で足を止める。
私は透明感のある銀色の酒「エルフの涙」をグラスに注ぎ、客に差し出す。陽光を浴びて銀色がキラキラと輝き、涼しげな雰囲気を醸し出すその見た目は、どんな人でも一目で引きつけるはず。
「これが『エルフの涙』よ。喉を通るたびに涼しさが広がって、後味は甘みと苦みが絶妙なバランス。まさにエルフの故郷を思わせる特別なお酒!」
私は自信満々で胸を張った。
最初の客がそっとグラスを手に取り、一口飲む。その瞬間、目を見開いて声を漏らした。
「涼しい…。喉を通った瞬間、まるで森の中を吹き抜ける風みたいだ!」
「うわ、本当だ! 甘みと苦みが絶妙で、飲んだ後にもう一杯欲しくなる味だな!」
試飲した客たちが驚きの声を上げるたび、私の胸は誇らしさでいっぱいになる。
「これ、エルフの里の酒って本当か?」
一人の客が聞いてきたので、私は微笑みながら答えた。
「ええ。私がエルフの里で慣れ親しんだ味を、皆さんにも楽しんでもらおうと思って特別に作ったの。」
「さすがだな。まるで故郷の風景が浮かんでくるような味だ!」
その一言に、周囲の客たちも大きく頷き、『エルフの涙』の評判は瞬く間に広がっていった。
しかし、その盛り上がりを打ち消すかのように、向かいの屋台から威圧的な声が響いた。
「おい、そこの派手な屋台、目立ちすぎだぞ!」
現れたのは酒ギルドの幹部バレル。以前、酔いどれ亭との対決で負けた彼が、悔しそうにこちらを睨んでいる。
「またあんた?」
呆れ顔を見せる私に、バレルはニヤリと笑いながら特製の酒「深海エール」を掲げた。
「今日こそは、お前の店に勝たせてもらうぞ!」
深い青緑色の液体がグラスの中でゆらめき、海を思わせる香りが漂う「深海エール」。試飲した客たちが歓声を上げる。
「リリィ、やばいんじゃないか?」
フォルクが心配そうに耳打ちしてくる。祭りの盛り上がりは最高潮だけど、向かいのバレルが気合いを入れて「深海エール」を振る舞い始めたせいで、妙なプレッシャーを感じるのも事実。
私は余裕たっぷりの笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫よ。酔いどれ亭の酒が負けるわけないわ。」
そう答えたものの、内心では少し焦っていたのかもしれない。隣の屋台の熱気に、客たちの視線が流れている気がしてならない。
その時だった。カウンターの隅で丸くなっていたドラコが、不意に身を起こし、小さな尻尾を揺らしながらニヤリと笑った。
「おいリリィ、その樽、飾りじゃないよな?」
…何よ、その嫌な前振り。私は一気に警戒モードに入る。
「ちょっと、ドラコ! それ触らないで!」
慌てて声を上げたけど、ドラコは涼しい顔で飛び跳ねながら樽に近づいていく。
「触らないでって、お前さ、あんな奴らと本気で勝負するのか? 全員泡まみれにしちまえば、勝負なんてどうでもよくなるだろ。」
「はぁ!? 何その理屈!」
私が叫ぶ間もなく、ドラコは魔法樽の下に潜り込み、小さな前脚で転がし始めた。
「おいドラコ、それやめ――!」
フォルクの声も虚しく、ドラコが器用に樽の栓を引っ掻いた瞬間――
プシュウッ!
魔法樽が小刻みに震え、次の瞬間、中から勢いよく泡が噴き出した。
「うわっ!」
私は慌てて飛び退いたが、泡は屋台を越え、隣のバレルの屋台まで飛び散っていく。
「リリィ! これは一体どういうことだ!」
泡まみれになったバレルが、信じられないといった表情でこちらを睨む。
「えっと…サ、サービス?」
思わず笑顔でごまかす私。でもその瞬間、周囲から爆笑が巻き起こった。
「これも酔いどれ亭の演出か! 面白いじゃないか!」
「泡まみれになっても、ここの酒が美味いから許す!」
客たちの笑い声に、バレルも渋々苦笑いを浮かべる。状況が悪くない方向に転がり始めたのを見て、私はようやく胸をなでおろした。
その間、ドラコは樽の上に乗っかり、尻尾を揺らしながら得意げに言う。
「ほらな、俺の言った通りだろ? ガチでやり合うより、泡まみれでみんな笑ってる方が楽しいんだっての。」
「…まったく、あんたって奴は!」
呆れつつも、その言葉を完全に否定できない自分がいる。
私は肩をすくめながらドラコを見て言った。
「でも、次はもう少し穏便にやりなさいよね。」
祭りが終盤に差し掛かる頃、私たちの屋台は大盛況。『エルフの涙』はすっかり評判になり、酔いどれ亭の名前はさらに広まった。
「これでまた、お店の評判が上がるわね!」
私は満足げに胸を張る。
「だけどリリィ、あの樽はやっぱり…」
ジーナが心配そうに何か言いかけたけど、私はそれを笑顔で遮った。
「次はもっと面白い酒を作るわよ! だって、それが酔いどれ亭の流儀なんだから!」
─
一方、祭りの賑わいの中で暗い影が動いていた――黒いフードを被った男が魔法樽に目を向け、低く呟く。
「やはり…あの樽は…。」
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