第11話 冒険にはポーションよ!
昼下がり、酔いどれ亭にはいつもの常連客が集まり、和やかな雰囲気が広がっていた。カウンターに座る若い冒険者が、興味津々な目でリリィに話しかける。
「リリィって昔は冒険者だったんだろ?どんな伝説的な活躍をしてたのか教えてくれよ!」
期待いっぱいのその目に、私は得意げに胸を張った。
「もちろんよ! 私はオリハルコン級の冒険者で、伝説なんて山ほど残してきたんだから!」
だが、その横でグラスを傾けていたフォルクが、吹き出しそうになりながらニヤニヤと口を挟む。
「伝説っていうか、“珍事件”の間違いだろ?」
「何よそれ!失礼ね!」
思わず抗議する私に、フォルクはさらに楽しそうに笑いながら話し始めた。
ダンジョンの奥深く、湿った空気が肌にまとわりつく不気味な場所で、フォルクと私はパーティを組んで依頼をこなしていた。
「なんか、このダンジョン、嫌な感じね。狭いし、暗いし、ジメジメしてる。」
私が不満を漏らすと、フォルクが振り返り、あっさりと言い放つ。
「嫌なら帰れ。」
「そ、それは違うわよ!任務を達成するのが冒険者の使命でしょ!」
ムキになって反論する私に、フォルクは肩をすくめただけだった。
だがその時、ふわりと甘い香りが漂ってきた。どこか果実のような芳醇な香りだ。
「あれ?なんかいい匂いしない?」
私は思わず鼻をひくひくさせながら、香りの方向を探る。
フォルクが眉をひそめる。
「おい、やめとけ。それは罠だ。」
だが、そんな忠告を聞く私じゃない。香りに導かれるように、私は足を速めた。
「こんな美味しそうな匂い、見過ごせるわけないでしょ!」
そして見つけたのは、怪しげな壺。黄金色に輝く液体が中に満たされていて、まるで「私を飲んで」と言わんばかりだ。
「これ、絶対に最高のお酒よ!」
壺に手を伸ばした瞬間――
ガコン!
床が音を立てて崩れ、私は壺を抱えたまま落ちていった。
「ぎゃーっ!だから言わんこっちゃない!」
フォルクの叫び声とともに、暗闇の底へと落ちていく。
落ちた先は、湿った地下空間だった。私は壺を抱えたまま、狭いトンネルで震えていた。
「…なんでこんな暗くて狭いところなのよ…。私、こういうの本当に無理…。」
声がかすれ、胸がざわざわする。暗闇と閉所――最悪だ。
「おい、リリィ、立てるか?」
フォルクの声が聞こえ、目を上げると、短剣の光で辺りを照らしながら彼が手を差し伸べていた。
「…ごめん、ちょっとだけ怖くて動けないの。」
珍しく弱音を吐く私に、フォルクは苦笑して言った。
「俺がいるだろ。ほら、行くぞ。」
彼の手に引かれてトンネルを進むと、突然、ゴリゴリと石の擦れる音が響いた。トンネルの奥から現れたのは、巨大なガーゴイルだった。石の翼を広げ、その赤い瞳がこちらを睨んでいる。
「きゃーっ!なんでこんなのが出てくるのよ!」
「そりゃ、壺を勝手に持ち出すからだ!」
フォルクが剣を抜き、ガーゴイルに立ち向かう。私はその背後で、震えながら壺を抱え続ける。
「壺、捨てろ!」
フォルクの叫びが耳に突き刺さる。だけど、私は首を横に振る。
「捨てられるわけないでしょ!これが最高のお酒だったらどうするのよ!」
「知らん!」
フォルクは剣でガーゴイルの攻撃を必死に防いでいるけど、その隙間をすり抜けるように敵が私に向かって迫ってくる。思わず私は後退りし、壺をぎゅっと抱きしめた。
「きゃー!待って、そんなに近づかないで!」
冷や汗が背中を伝う中、ガーゴイルの赤い瞳がギラリと光った。迫る敵、縮まる距離、そして私はパニックのあまり叫んだ。
「もう、こうなったら仕方ない!」
ぎゅっと握った壺を両手で抱え、全力で敵に向かって突き出した――その瞬間。
バリーン!
壺はあっさり割れて、中の液体が勢いよく飛び散る。そして、予想だにしないことが起こった。
「えっ…?」
ガーゴイルの動きがピタリと止まり、その場に石像のように固まった。
フォルクも私も、呆然としたまま立ち尽くす。敵が動かなくなったその静寂の中で、壺の破片が床でカラカラと音を立てる。
「…お前、壺が奴を止めたのか?」
フォルクが不信感たっぷりの声で私を見る。私は壺の破片を拾い、手についた液体の香りをそっと嗅いだ。そして気づく。
「え…これ、ただのポーションだったみたい。」
自分で言っておきながら、肩の力が抜ける。最高のお酒じゃなくて、回復用のポーション?どういうことよ、それ。
「お前な…!」
フォルクがガックリとうなだれる横で、私は壊れた壺を手にポツリと呟いた。
「まあ、結果オーライよね。」
後日、この話を酒場で披露すると、常連たちは大爆笑。
「それ、ただのドジじゃねぇか!」
「いやいや、ポーションで敵を止めるなんて新しい戦術だろ!」
赤くなりながらも、私はカウンターから新しい一杯を取り出す。淡い緑色に輝く『ポーションコール』。ポーションをベースに作ったお酒で、ハーブの香りと柑橘系のフルーツの甘酸っぱさが特徴の一品だ。
「さあ、これを飲んで、冒険の思い出に乾杯しなさい!」
私は胸を張ってグラスに注ぎ、漂う爽やかな香りが酒場中に広がる。冒険者たちが恐る恐る口に含むと――
「これ、なんだ!? ポーションっぽいけど、ちゃんとお酒だ!」
「飲むだけで癒される気がする…でも後味はさっぱりしてる!」
感動の声が次々に上がる中、私は満足げに笑う。
「でしょ? 疲れた体も心もこれでリセットして、次の冒険に備えなさい!」
グラスを掲げて声を張り上げると、みんなが一斉に「乾杯!」と笑顔で応じる。
店内には酒の香りと笑い声が響き渡る。やっぱり、美味しいお酒って最強よね。どんな珍事件も、笑いに変える力があるんだから!
─
「元オリハルコン級だと…森での身のこなし、咄嗟に放たれた魔法の精度――そういうことか…。」
影たちは、リリィの強さを少しずつ測りながら、その底知れぬ力に警戒を強めていた。
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