第10話 酒場の楽しみは、酒と話!
酔いどれ亭の夜はいつも賑やかだけど、この日はどこか不思議な空気が漂っていた。カウンターの隅に座るオズワルド・ペール――薄汚れた旅装に深いシワが刻まれた顔。その姿は静かに酒を飲んでいるだけなのに、店全体を包み込むような存在感を放っている。まるで、物語そのものが椅子に座っているみたい。
「おい、リリィ。あの爺さん、毎晩来てるけど何者なんだ?」
フォルクが小声で尋ねてくる。いや、私だって知りたいわよ。でもね、あのただならぬオーラをまとった人に「何者ですか?」なんて、そんなこと怖くて聞けるわけないでしょ。
「あら、常連さんなんだからいいじゃない。黙ってお酒飲んでくれるだけで助かるわよ。」
そう言いながらも、内心は興味津々。冒険者時代の話らしき呟きがたまに聞こえてきたり、やたら知識が豊富だったり…。ただ、変に突っ込むと、どこか異世界に引きずり込まれそうな圧を感じるのよね。なんていうか、“ただ者じゃない”ってこういうことを言うんだなって。
そんなことを考えながら、私はカウンターで新作カクテルの試作に集中していた。「エルダー・シルエット」と名付けた自信作よ。ベースには甘く濃厚なエルダーベリーのリキュールを使い、夜空をイメージした銀の魔法粉をひと振り。グラスの中で星屑みたいに輝くのがポイント。それだけじゃない。魔法で薄氷を張らせて、飲むときに氷を割ってひんやりした甘さと濃厚なコクを味わう仕掛けもあるの。こんなの飲んだら感動しちゃうに決まってるでしょ。
「ふふん、完璧!」
グラスを持ち上げ、キラキラ輝くその美しさに思わず満足げに微笑む。その瞬間――。
「それ、いただけるかな。」
低い声に振り返ると、オズワルドが手を差し出していた。ちょっと待って、あの寡黙な人が自分から話しかけてくるなんて!思わず声が裏返りそうになるのを堪えながら、私は得意げにグラスを差し出した。
「もちろんよ!飲んでみて!」
魔法でカチンと氷を張り、グラスを渡す。その瞬間、店内のざわつきがふっと収まり、空気全体が彼に引き寄せられるような静寂に包まれた。
オズワルドはじっとグラスを見つめ、一口飲む。そして、しばらく沈黙した後にポツリと。
「…ふむ。これは見事だ。」
短い感想なのに、深い重みがあって、まるで審査員に満点をもらったみたいな気分!思わず心の中でガッツポーズを決めた私。
だけど、彼は続けた。
「ただ、惜しいな。この香りには“ほんの少し”トレントの木々を燻したエッセンスを加えると、もっと深みが出る。」
トレント!?あの森の怪木のことよね?それを酒に使う発想がある?驚きで目を見開く私をよそに、彼はさらりと昔話を始める。
「昔、東の大陸の砂漠の国で飲んだ酒があってな。その香りにはトレントの燻製のような深い余韻があった…」
静かで流れるような語り口調に、お客たちは最初こそ興味津々だったけど、話がやたら細かくて長い。途中で居眠りする人まで出てくる始末。
「爺さん、それ、いつ終わるんだよ。」
フォルクが痺れを切らしてツッコむと、オズワルドはくすりと笑った。
「終わらせてどうする?酒場の楽しみは、酒と話だろう。」
その言葉にハッとする。確かに、彼の話を聞いている間に、気づけば私もグラスを空けていた。まるで彼の言葉そのものがお酒みたいに酔わせる。なんて不思議な人なのかしら。
「謎めいている方が面白いだろう?」
そう言い残して、またカウンターの隅へと戻っていくオズワルド。その姿を見送りながら、私は思う。この人が座っている限り、この店に静けさなんて訪れないんだろうなって。
翌日、私は「トレント燻しのエッセンス」を取り入れた新しい「エルダー・シルエット」の試作を始めることにした。飲む人の心を動かす一杯を作れるかどうか――それが、私の次なる挑戦だ!
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