4 権力者
マザーダリアン号に戻ると、リジェもセリも起きていて、夕飯を食べているところだった。
「おかえりー。どうだった?王女様可愛かった?」
呑気にそんな質問をしてくるリジェに、リンクは依頼料を渡す。(この船のお金の管理はリジェがしている。)
「あれ、多いな。どしたの。王女様に気に入られたの?」
依頼料を数えてきょとんとしているリジェに、ハトバが説明する。
「王女様は可愛かったし、気に入られて今後も贔屓にするよともいわれたんだけど、この多い分は迷惑料だって」
そう言って、ハトバとリンクは代わる代わる事の顛末を語った。
途中、セリの顔が怒りのあまり赤黒くなった気がするが、怖いから見てはいけない。
聞き終わったリジェは、感心したような呆れたような表情で息を漏らした。
「ひえー、すごいねリンク。一人でツバサ二台操って、ツバサからツバサに飛び移るって、お前の運動神経は化け物なの?」
「とりあえず、俺はリンクを殴りたい」
唐突に物騒な発言をするセリ。というか、言いながら殴りかかった。
流石にセリに喧嘩を教えている師匠なだけあって易々と殴られることはなく避けたが、驚いたように目を見開いて叫ぶ。
「なんでだよ!ちゃんと無傷で取り返しただろ!?」
「俺、可愛い娘が傷物にされそうになった父親みたいな気持ち。危険にさらしたリンクのこと許せない」
「それならハトバも同罪だろ!たまたま俺のツバサだったってだけだぞ!」
またも殴りかかろうとするセリを抑えて、リジェはなだめるように言う。
「まあまあ、落ち着けって。これは今後の動き方次第じゃあ、ツバサが狙われるかもしれないってことだぞ」
最後の言葉が気になったのか、セリは拳を下した。
「…どういうこと?」
「だって、そのダビデって奴は権力者なんだろ?しかも大陸で一番力が強いルドラシア帝国の皇帝の次男。長男の皇太子よりは自由が利く身の上の、でも絶大な権力を持っているってことだよな?」
「まあ、そうなるよな」
三人は頷く。
「今回はそいつの単独行動だっだけど、国の軍隊の人とか連れてこられてみてみ。俺らとか絶対太刀打ちできねえわ」
セリは考え込むように目を瞑った。
「でもあいつ、ツバサに乗れなかったぞ」
リンクの疑問に、リジェは片眉を上げて答える。
「権力者なんだろ?多分、自分が乗るために欲しがってるんじゃない。ツバサほどの機動力のある飛行機はないから、ツバサを使って何かしたいんじゃないの?平和的なことなのか、そうじゃないのかは分からないけど。どっちにしたって、どこか一つの国に肩入れしたら争いが起きるから、どの国にも技術提供はしない。これが空の民の鉄則だ」
これは、リジェとセリが生まれ育った公務員養成学校で、一番最初に教わる理念だ。知識を持つ者は、その知識を有用に使わなければならない。それができないのならば、知識を持つ資格などないのだと。
「まあ、王女様は可愛いみたいだし、お得意様になってくれるんなら全力で乗っかるけど、王女様の依頼のときは注意して行こう。一人留守番で三人で行って、二人はツバサの見張り、一人が交渉役な」
「あいつはいつも離宮にいるわけじゃないらしいけど、念には念を入れたほうがいいよねー」
うんうんと、ハトバも頷く。
そんな話しをした、一月後のことだった。
マザーダリアン号が襲撃を受けたのは。