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財宝少女と空翔ぶ少年  作者: 森のこぐま
2章 不良少年と病弱な王女
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2 王女からの依頼

 新たに仲間に入ったリンクとハトバという名の兄弟は、シルバルク国出身の孤児だ。同じスラム街で仲良く育ったので兄弟分となったそうだが、あまりにも似ていないので血は繋がっていないのだろう。

 リンクは、シルバルク国では珍しい淡い金髪に水色の瞳の色素の薄い青年で、ややつり目がちの上品な顔立ちなのだが、中身は外見と180度違ってガサツで喧嘩っ早く、またものすごく腕っ節が強い。

 ハトバは、緩やかにウェーブのかかった黒髪に茶色の瞳という、シルバルク国とゴルドルク国の国境付近でよく見られる容姿をしているが、本人は首都育ちである。またシルバルク人にしては非常に身長が高く、二メートルほどある。蜂蜜色の肌と泣きぼくろのある垂れ目がなんとなく色っぽく、快活で人たらしな性格から、女性には非常にモテる。かれもリンクと同様腕っ節が強い。

 リンクとハトバはこの船の用心棒をしつつ、運送もしつつ、リジェとセリに戦い方の教授もしている。

 リジェとセリにとっても、運送の依頼が増えすぎて二人では手一杯になっていたので、運送を手伝ってくれる上、他の同業者からの力づくの妨害を軽くいなしてくれたり、喧嘩の仕方を教えてくれたりと、このお気楽な二人組は頼りになる強い味方であった。なにより適当で楽天的な奴らなので、一緒にいても快く過ごせる。

 …二人の加入後、「風の民」が盗賊と間違えられるようになってしまったのは玉に瑕であるが。

 というわけで、セリはさらに機動力の高い運送屋になるべく、二人のツバサを制作しているところであった。

 「リンクのはできたよ。ハトバのはあとちょっと」

 「楽しみだなあ!」

 そう言って人好きする表情でにこにこ笑うハトバは、童顔で無邪気だがリジェよりも一つ年上である。常に十人くらい彼女がいるらしく、彼に機動力を与えたらなかなか帰ってこないのではないかと不安でもある。

 「俺のできたなら、ちょっと試運転しよっかな」

 「この高度で乗ったらリンク空から落下して死ぬんじゃないの」

 「うるせーよ!このクソ機械オタクが!」

 セリの憎まれ口に口汚く応えるリンクは、子供っぽいがハトバよりも一つ年上なので、風の民メンバーの中では最年長だ。

 「リンク、試運転するならさ、サシトラの上空で止まるから、依頼されてた花、取ってきてくれない?」

 自分のツバサに乗ろうとしているリンクに、リジェが声をかける。

 「花?」

 「例の、王女様からのご依頼のやつだよ」

 そう言いながら、リジェはリンクに依頼情報が書かれたメモを渡す。

 「運送屋のザンベラですって、この花屋に取りに行ってこのメモ渡したら、商品くれるからさ。そしたらお金払って、母船に戻ってきて。繊細な商品だから、壊れないように、この箱に入れて運んでね」

そう言いながら、ガード用の重たい箱をリンクの体に括り付ける。

 「…リジェ、このガサツな男に繊細な商品運べるわけないんだから、俺かリジェかどっちかが行ったほうがいいんじゃないの」

 歯に衣着せずに失礼なことを言うセリに、リンクは目を見開いて

 「そんくらい、できねーわけねえだろが!お前もっと年上を敬えよな!」

 と文句を言うと、マスク付きゴーグルと耳あて付きの帽子をかぶり、外套を着こんで、勢いよくマザーダリアン号から飛び立っていった。

 「…何?王女様からの依頼って」

 初耳だったハトバが尋ねる。

 「んー、なんかね、ルドラシア帝国の王女様が風の民の噂を聞いて興味を持ったらしくてね、一度届けてもらいたいってことで、サシトラの朝摘みのお花を当日中に持ってきてほしいっていう興味本位の依頼なの。花は鮮度が勝負だからねー」

 呑気な様子で答えるリジェに、ハトバは目を剥く。

 「おいおい、サシトラからルドラシアって、国境越えてるじゃん。なんちゅう依頼だよ」

 「ルドラシアって言っても、首都の皇宮じゃなくて、サシトラ寄りの郊外にあるプーセ離宮までって依頼だから、まあ俺らにかかれば余裕だよ。皇族が顧客になってくれるかもしれないチャンスだから頑張らないとね」

 「そんなチャンスを、よく兄貴の試運転に当てたな…」

 呆れたように言うハトバだったが、リジェは朗らかに笑む。

 「えー、だってリンクは頼りになるじゃん。別に頼むことを変だと思わないけどな」

 妙な器の大きさを見せるリジェ船長に、セリはこっそりとため息を落としながら、ハトバのツバサの仕上げにとりかかった。

 その後、リジェの期待通りに、リンクは結構な素早いタイムでマザーダリアン号に戻ってきた。乗りこなすのが難しいツバサだが、運動神経のいいリンクとハトバは初めて乗ったときから既にコツを掴んでいて上手だったので、そう予想外でもない。

 それからリジェの操縦でマザーダリアン号は高速でプーセ離宮上空まで移動し、ハトバのツバサが出来上がるのと同時くらいに到着した。

 「よっしゃ!じゃあ、俺がお届けに行ってきていい?」

 当然ながら名乗り出るハトバに、リジェは鷹揚に頷いた。

 「勿論。王女様に失礼ないようにねー。運送屋のザンベラですって言って、王女様ご本人に商品を渡して、お金をもらって帰ってきてね。よろしくー」

 そういいながら、リジェは甲板のカウチソファーに横たわる。運転を頑張ったので疲れたらしい。

 同じく、ツバサ制作を頑張っていたセリも、くたびれた様子でハンモックによじ登ってすぐに寝入った。

 特に疲れもなく元気なリンクも、ハトバと一緒に出掛けることにした。

 目的地はプーセ離宮。依頼者は皇弟の末娘、ナターリア王女。王女はハトバと同い年らしく、そうした育ちの良い人に会うこともめったにないので二人は楽しみであった。

 これが、ある災厄を招くことになるとは、このときの四人はまだ知る由もなかったのである。


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