3 空の旅人の仲間入り
その後、リンクはシルビーに戻って、緑猫の赤毛に依頼失敗ごめんなさいをしてダッシュで逃げた。後々の付き合いがあるかもしれないことを考えると、筋は通さないとダメだからね!
ハトバは、少年が空に逃げ帰って二度と会えなくなってしまっては嫌なので、逃げられないようにがっつり身柄を抑えていた。本物のボディーガードみたいにスカインのところに付き添って依頼を受け、その後空に帰ろうとする少年を帰すまじと引き留めた。
空に帰れないが、『ツバサ』の二人乗りもできないので、仕方なく少年は謎の通信機器で弟に連絡を取っていた。
「なにそれ?」
「携帯通信だよ。地上にはないの?空の民はみんな持ってるけど」
「空の民って何?」
そこでハトバは、少年が『空の民』という民族の出身であることを知った。ハトバは知らなかったが、空には島が浮かんでいて、そこに住んでいる人のことを『空の民』というらしい。ターバンも、ふわふわした装束も、浮世離れした容貌も、空の民の特徴なのだという。
「じゃあ、空の民はみんな『ツバサ』とか持ってて、その辺の空を散歩してるの?」
「いいや、普通空の民は、生まれ育った島から出ないよ。空を船でうろうろして、落ちたら怖いじゃん」
感覚的には、空の船で移動するのは、島国の人が船で海を渡るのよりちょっと怖いくらいのものらしい。
「だから、地上の人はあんまり空の民のこと知らないんだって、母さんが言ってた。でも、俺と弟は、小さいころから船を作ってその辺の空をうろうろしてたから、こういう生活が合ってるんだ。『ツバサ』は弟オリジナルの製品だから、俺たちしか持ってないよ」
へえ、とハトバは感心して言った。世界は広い。
「そっか。俺はシルビーからあんまり出たことないから、海も見たことねえんだよなー。空みたいに広く水が広がってるって聞いてるけど、見てみたいなー」
憧れを語るハトバに、少年はにこりと笑った。
「ちょっと空に昇ったらすぐ見れるよ。陸地から離れたら、空と海の区別がつかないくらい、どっちも青くてきれいだよー。…そういや、お前のハトバって名前、この前ハトバ岬ってところに行ったけど、関係あるの?」
「いや、まったく関係ないよ。特に名前に意味ないと思う。そういや、お前は名前なんていうの?」
「俺はリジェウスだよ。みんなリジェって呼んでる」
今更ながらに自己紹介をしてもらう。変わった名前である。
「…めっちゃ古風な名前だな」
ハトバの感覚的には、爺さんの名前よりももっと古い、歴史上の人物の名前くらいの響きの名前だった。
「そう?空の民はみんなこんな感じの名前だよ。弟はセリメニアウスっていって、みんなセリって呼んでる」
「どうせ短く呼ぶなら、本名が長い意味なんなの…?」
「なんなんだろうねー、…確かに空の民はみんな名前省略して呼ぶなあ」
そんな感じのどうでもいい雑談をしていると、携帯通信に弟から連絡が来た。
「セリが、近くの砂漠まで迎えに来てくれたから行こうか」
二人はズン町を離れて、砂漠地帯をてくてく歩く。
しばらく歩くと、4人乗りの車くらいの大きさの乗り物と、リジェと同じような格好をした少年が見えてきた。
「セリ!ありがとう、迎えに来てくれて」
「リジェ、なにやってんの。母船あんまり放っておけないからさっさと戻るよ…」
セリはシニカルな少年らしく、呆れたように言うと、リジェにさっさと乗り込め、と顎でしゃくった。
「で、この子を連れて帰るの?ほんとリジェさー…何考えてんの?馬鹿なの?」
当然だが、セリは胡散臭そうにハトバを見やった。ハトバは得意の笑顔で、
「これからよろしくな!セリ!」
などと言いながら、図々しく車みたいな空の船に乗り込んだ。
それから一旦『母船』に戻ると、リジェはスカインの依頼をこなすために出かけたので、ハトバは初対面のセリを質問攻めしながら過ごした。
やや気難しく人見知りの気のあるセリは、明るいハトバの対応を押し付けられてめちゃくちゃ嫌そうに困っており、ハトバはそんなセリを見て面白がっていた。
リジェの帰船後、先ほどの車に乗ってリンクを迎えに行った。
それから、4人での空の旅が始まったのだった。