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泣き言呟いて救われる安い幸せでいいなら寄り添うけど

作者: 一色 良薬

「なんでそんなこと言うの」

 子うさぎの瞳をうるうるとさせながら、両手で顔を覆うように萌がわぁっと泣き言を放った。

 カフェのテラス席に座っているものだから、通行人がすれ違いざまに視線を寄越してくる。

 泣いてる? 何があった? 泣かされてるの? うわぁ可哀想。

 同じようにテラス席でひとときを楽しんでいるお客も、控えめな探りを装って興味津々に凝視の眼差しを向けてくる。

 誰もが向かいでめそめそとしている萌を哀れみ、しらけた様子の私を厳しい様子で窺う。

 物言いがきつそう。顔が怖いってあの子。服装からして強そうじゃん。

 萌に対する正反対の心の声が目の動きから伝わってきて仕方がない。

 場所を変えて話した方が私にとっても都合がいいが、きっと萌は何も学習せずにけろっと可愛い顔で全てをうやむやにしてしまうだろう。

 潜んだギャラリーに囲まれながら、唇を舐めて中断した会話を続けた。

「私は萌を傷付けようとして言ったわけじゃないよ。ただいつも“ああすれば良かった”“もっとこうしたら良かった”“今頃こうだったかもしれない”って過ぎたことを憂いて次に活かさないなのは、お互いにとって時間がもったいないって思わない?」

「私の悩みを聞くのは時間のムダってこと?」

「そうじゃない。でもただ話を聞いてもらいたいだけなら、私はもう萌の力にはなってあげられないってだけ」

 生易しい言葉で救われるのは最初だけだ。

 与えられた優しさに依存性を見出して本当の幸せを見失ってしまう。

 萌は私を都合のいい友達と思っているのかもしれない。

 でも私は友達だと認識しているからこそ、あり合わせの安い言葉で苦しみから救いたくない。

「萌のためを思って、なんて厚意の押し付けをしようとは思ってない。でもこれ以上続くならもう聞いてあげられない。」

 ぽろぽろと萌の瞳から大粒の涙が零れる。

 泣き言呟いて救われる安い幸せでいいなら寄り添うけど。

 偽りの優しさを差し出せる人間だったら良かったのに。

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