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魔女の拾いもの  作者:
6/9

6.帰る場所

「まったく人間というものは、いつまでもそれを教えてはくれないね」

 ぞっとする美声だ。

 ヴェールを取り去った求愛の魔女は、こてりと首を傾げる。

 幼い仕草なのに、王妃殿下とは比べるべくもない品格があった。

「せっかく協力してもらったのに、ごめんね。侯爵。ぼくはまだ探さなくてはいけないみたいだ」

「いいえ、殿下。とんでもございません。あなた様の旅路をお手伝いできた幸運に、感謝いたします」

「困ったことがあったら、風に頼るといい。きっとぼくまで届く」

「はい。我が一族の忠誠はあなた様に」

 公の場所で堂々と何一つ恥じることもなく、侯爵は魔女にひざまずく。私に駆け寄ることもせず、目を白黒させているだけの補佐官にはできないだろうな。

 羨ましい。

 その別れに水を差すのは忍びないけれど、私はそっと口を挟む。

「この国を去られるのですか?」

「うん。そうするつもり。君は?」

「厚かましいことは承知の上で、送っていただければ、と」

 魔女は微笑んだ。

「もちろん、いいよ。君はそうしたかったんだろうと思ってた。だからこの国へ来たんだ。あの子たちは君の記憶を封じてしまったけれど、それは奪いたいわけではなかったんだよ。与えたくて、そうしたんだ」

「わかっています」

 私の、ぼくの大切な魔女たちは、ぼくに未来が……人として生きる選択肢があるのだと本当に思っていたのだ。結果として、ぼくは彼女たちの優しさを無駄にしてしまったわけだけれど。

「……怒られるでしょうか?」

「ふふ。かもしれない。でも、君だってちょっと怒っているでしょう。こわい顔はしないであげてほしいな。あの子たちはあの子たちなりに、君を大切にしていたんだよ」

 求愛の魔女は歌うように流れるように教えてくれた。

 大切に、なんて。

 当たり前の言葉みたいに言ってくれるから、ぼくは魔女を怖がったりできないのだ。

「……ぼくはもう、赤い瞳ではないけれど」

「続きは君の魔女に言うといい。太陽の魔女に、直接ね」

 小さな子どもを諭すように、彼はそっと爪先立ってぼくの頭を撫でる。

「さあ、行こうか」

 風が吹く。

 燭台の火が揺れ、ヴェールが舞い、人々の影がざわざわ形を崩した。

 ぱちぱちぱち。

 まるで拍手のようにまじないが弾ける。


 風に怯んで閉じたまぶたを、人々が恐る恐る開いた時、二人の「王子」はすっかりいなくなっていたのだった。




 初めて目にする魔女の森は、思っていたよりずっと明るくいきいきとしていた。

 針のように尖った背の高い木々や、人を拒む茨、怪しい色のきのこ。「怖くて悪い魔女」の棲みかにふさわしい植物たちに、求愛の魔女が声をかける。

「やあ、こんにちは。アサヒとユウヒに届け物があるんだけど、伝えてくれる?」

 茨の門がしゅるりとほどけ、木々は枝を揺らし陽の光で道をつくった。きのこにいたっては、紳士のようにかさを取っておじぎまでした。おまけにぴょこっと立ち上がったので、ぼくは思わず声を上げてしまった。

「ふふ、驚いたかい? この森は意外とおちゃめなんだよ」

「……時々、ぼくを引っ張り起こしてくれていたのって」

「そうだね。多分この子達だね」

 きのこがえっへんと胸? を張る。


 そうとも、褒めてくれていいんだぞ。


 こんな声が聞こえてくるようだ。森の主の片割れによく似ている。

「ありがとうございます」

 礼の言葉がするりと出てきた。

 さあ行こうと求愛の魔女が呼ぶ。遠くで鳥たちが羽ばたいた。

ありがとうございました。次回は25日です。

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