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魔女の拾いもの  作者:
3/9

3.おかえし

今回はとても短いです。

 どうしたの、怖い顔して。ふふ。久しぶり、ね。それやめなさいって、あたし何度も言ったわね。アサヒが怖がるじゃないって。

 きっと、本当のところ、あんたは怖がってて、悲しんだりもしてて、でもあたしたちにそういう感情はなかったから、少しでも顔を歪めたら全部「こわい」って思っていたの。

 しょうがないわ。魔女だもの。ヒトの表情なんてわからないわ。獣の笑顔があんたにわかる? 木々の苦しみが聞こえる? 結局ね、あんたはあたしたちの拾いものだわ。この森の生き物じゃない。そうでしょう。目が見えたって、わからないことばかりね。


 どうしてって、おかしなこと聞くのね? あなたが望んだことだわ。あたしたちはあなたに約束をした。目が見えるようになったら、あなたもきっとあたしたちを怖がってしまうわ。それは、やっぱり、悲しいんだもの。だから、呼んだって顔なんか出さないわ。もう決めたの。……決めたの。


「あんたの目をもらったわ」

「赤くてきれいな、あたしたちの大好きな目を。見えなくたっていいの」

「あたしたちには目が四つあって、そのうちの二つが見えないくらいどうってことない」

「代わりにあたしとユウヒねえさまの目を片方ずつあげるね」

「ちゃんと見えるようになったでしょう」

「あなたの嫌いな色はなくなって、不便な杖を使わなくてもよくなったわ」

「あたしたち、約束を守ったのよ。望んだとおりになったじゃない」

「あ、あのね。あのね! 求愛の魔女に聞いたの! あなた王子様だったのね?」

「本物のお城に住んで、たくさんの人にいろんなことを命じられるんでしょ。もう自分で薬草を煮込んだり、試しに呑んだりしなくていいのよ」

「よかったわ。よかったのよね? なのに、ねえどうしてかしら」


 どうしてこわい顔してるの?


「本当にわからないんですか」

 と、拾いものが泣く。

 ついつい姿を見せてしまいそうになって、あたしたちはお互いを引っ張って止めた。

「わからないわね」

 いみご、と呼ばれたことがある。あたしたちがまだヒトの中に紛れていた頃、この森に捨てられる前のことだ。あたしたちは魔女なので、その頃のこともちゃんと覚えている。ほんとに短い時間だったけれど、あたしたちがヒトでないのだと自覚するには十分だった。

 でもこの子はあたしたちとは違うから。

 ヒトの形をしてるから。

 きっと戻ったってやり直せる。

「送ってあげるわ」

 手がかりなんてないって言ったけれど、森はどこまでもあたしたちに優しい。忘れずにいてくれたのだ。珍しいヒトの子がどこからあの泉に紛れ込んだのか、ちゃんと覚えていた。

 拾い物に姿が見えないように、気づかれないように樹でくるむ。そのままゆっくり眠らせて、記憶の箱のふたを閉じる。次に目を開いたとき、拾い物の目に映るのはどこかの豪華な天井で、この森の何もかもを忘れているはずだ。

「落とさないようにね」

「やさしく運んで」

 もちろん、と木々はこたえる。

 ざわざわ葉のこすれる音が遠ざかっていくのを、あたしたちはじっと見つめる。赤と黒の瞳で。

「さようなら」

「さようなら」

 陽が昇り、陽が沈む。

 赤く染まる魔女の森に、あたしたちの声だけが響く。


ありがとうございました。次回は19日です。

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