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本日もよろしくお願いします


 俺、ツェツェアーリは今、死地に赴く兵士の様な気持ちで歩いている。

 純白のドレスに身を包み、

 父上にエスコートされながら、

 赤い絨毯の上を、

 これから夫となる顔も知らない男性の待つ、

 祭壇前に向かって。


(無理だ!男なんて愛せる気がしねぇ。俺は女しか愛せない!やっぱ、さっさと家出しとくんだった!ちょっと危険だけど、冒険者になれば自分の食い扶持を稼ぐ位はできるんだし!)


 しかし、後悔してももう遅い。祝福に集まった大勢の客の前で婚前逃亡する訳にもいかない。そもそも、この結婚は国同士の政略であり、最初からツェツェアーリに拒否権はなかったのだ。





▲▽▲▽▲▽


 ツェツェアーリはパミドロル帝国の侯爵家レフルミド家の五女として生を受けた。

 父は貴族には珍しく妾を持っていなかったが、子沢山であった。正妻との間に8人もの子をもうけ、ツェツェアーリは末っ子である。ツェツェアーリが物心着いた頃には、長兄は帝城で騎士をしながら、休日には父に付いて領地経営の勉強を始めており、次兄は騎士を目指して鍛錬中だった。その下にもう1人兄がいる。姉は4人いたが1人は既に政略結婚しており、その下の3人の姉も婚約済みで、主だった貴族家との縁を結ぶのには十分であった、だから末っ子のツェツェアーリはオマケで生まれきた様な扱いであり、行儀作法に煩く言われる事なく、小さい頃から自由奔放に育ってきた。


 幼少の頃、両親と年嵩の兄達、姉達は1年の殆どを帝都の屋敷で暮らしていたが、ツェツェアーリと1歳上の兄テムズは領地で暮らしていた。


 領地の屋敷の敷地には家臣も彼らの家族と一緒に住んでおり、その子弟らが沢山いた。ツェツェアーリは兄も含め自分と同じくらいの年齢の男の子達に混じって、屋外を飛び回っていた。

 オマケのツェツェアーリは男の子の恰好をしていようが、屋敷の外に出ようが、日焼けや擦り傷を作って帰ろうが叱られる事もなく、「女の子なのに!」などと言われる事もなかったせいで、自分が女の子であるなんて露程も思わなかった。

 自分の事を「俺!」と言っていたが、それを正す者は誰もいなかった。一緒に遊んでいた男の子達も、ツェツェアーリを男扱いしていた。いや、男扱いと言うよりも、そもそも性別を気にするという概念が無かったのだと思う。

 男の子達の遊びは激しい。木登りをしたり、大人の背丈程の高さの崖から飛び降りたり、厩に馬を揶揄いに行って蹴られそうになったり、木の棒を使って剣士ごっこしたり、殴り合いや取っ組み合いの喧嘩をしたり、川で釣りをしたり。

 家臣だとか領主の子弟だとか、そういう概念も子供達には無く、お互い遠慮がなかった。

 剣士ごっこでは、木の棒を持って、けっこう本気の打ち合いをするのだが、家臣の子供達5人とテムズ兄さんも含めた7人の中でツェツェアーリが一番年下であったが、一番強かった。「ツェツェは将来、剣聖になれんじゃねぇの?」と煽てられて満更でもなかった。


 ツェツェアーリが5歳だったある日、いつもの7人で川に釣りに出掛けた。夏の盛りの暑い日だった。

 暑さのせいか魚は全く餌に食いつかず、全然釣れなかった。全員が釣りに飽きてきた時、1人が「しょんべん飛ばし競争しようぜ!」と言い出した。


「なんだよそれ!」


「川岸に並んで、川に向かってしょんべんするんだよ。それで誰が一番遠くまで飛ばせられるかを競うんだ!」


「面白そうだ。やろうぜ、やろうぜ!」


 早速、釣り道具を放り出して、みんなで川岸に並んだ。ズボンの前の釦を外して、ブツを取り出し放尿の準備をするみんな。「せーの」で一斉に放尿するとツェツェアーリ以外の子らの尿は、放物線を描きながら川の中にじょぼじょぼと放たれた。

 しかし、ツェツェアーリの尿はどうした訳か、じょじょじょじょじょ~~~とズボンを濡らしながら真下に流れ落ちたのだった。


「何やってんだよツェツェ。ちんちん出さなきゃ飛ばないだろ?」


「めっちゃズボン汚れてんじゃん。臭っせ~!」


「ちんちんって何?俺、そんなの無いよ?」


「無いって事はないだろ?見せて見ろよ!」


 ツェツェアーリは汚れたズボンを脱いで、川岸に仰向けになり、みなが見えやすいように股をおっぴろげた。


「ほんとだ!ツェツェの股間にちんちんねーぞ!」


「変なのー!ツェツェ変なの!」


「えぇ!? ・・・俺、病気かなんかかぁ?」


「違うぞ。俺知ってんだぞ。ちんちん無いのは女って言うんだぞ!ツェツェは女だったんだ!」


「女って何?別な生き物なの?」


「女って(かあ)様や姉上の事さ!男と結婚して赤ちゃんを産むんだぜ」


「女ってスカート履いて、家の中で人形で遊んだり、本読んだり、おままごとしたりするんじゃねぇの?何でツェツェは男のふりしてたんだ?」


「え?俺は男だろ?」


「ちんちん無ぇから男じゃねぇよ!」


「何でそんな意地悪言うんだよ!俺もみんなと一緒が良い!おままごとなんかやりたくない!ぅわぁ~~~ん!」


「な、泣くなよ。女でもいいじゃん、今まで通り遊んでやるからよぉ」


「そうだ、そうだ。ツェツェはツェツェだろ?明日も遊ぼうぜ!」


 その後、散々泣いて、みんなに慰められて、ツェツェアーリは下半身裸で屋敷に帰った。

 裸で長時間いたのが悪かったのか、自分の性別を知って衝撃を受けた事での知恵熱なのか、その晩からツェツェアーリは熱を出して3日ほど寝込んでしまった。

 熱に浮かされながら長い夢を見た。

 そして思い出したのだ。騎士として従軍し、22歳の若さで命を落とした男の人生を。


 



▲▽▲▽▲▽


 「熱は下がったが、もう1日大人しく寝ていなさい」とレフルミド家お抱え医師に言われたツェツェアーリはベッドの上で天井を見つめながら考え事をしている。


(俺、何で自分の事を男だと思い込んでいたのか、何で剣の扱いに長けていたのか、理由が分かったぜ。前世の記憶が無意識下にあって、それが意識に影響を与えていたからなんだな)


 窓の外から男の子たちが騒いでる声が聞こえる。

 耳を澄ませると、遠くで家臣の騎士たちが鍛錬する声もする。


(あの戦争は結局、どうなったんだ?とても勝てるとは思えない状況だったんだけど、パミドロル国が何故か、帝国になってるし。

 ツェツェアーリ(今世の俺)は全く本を読んでないし、勉学もまだ始めていないから全然分からん。まぁ5歳じゃ無理か)


 前世の記憶を取り戻した事で、精神年齢も亡くなった22歳の頃に戻った。

 寝てるのに飽きたツェツェアーリはベッドを抜け出して、窓辺に寄り外を眺めてみた。

 いつもの悪ガキ6人が屋敷の庭の木に登って遊んでいるのが見える。木の上の方に布が引っ掛かっているのが見える。誰かのハンカチかスカーフか何かだろう。あれを取ろうとしてる様だ。


(元気になったら、書庫に行って歴史書を読んでみるか)




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