断章-7
はっとして、目覚める。
見たことのない天井が、開理を出迎えた。
ここは、何処だ? 慌てて辺りを見回す。しかしすぐに耳にした聞き知った声に、開理は自分が何処にいるのか把握することができた。
「あ。やっと目覚めたっ!」
明らかにほっとした声と共に、五次の妻である天楚の貴族、天元伯千尋の顔が現れる。千尋がいるということは、ここは王宮ではない。天楚市内にある天元伯の屋敷だ。しかし何故、自分はここに? 王宮にいた、はずなのに。そこまで考えてはっとする。王は? 憶都は、どうなった?
千尋が開理の身体を押さえる前に、ベッドから滑り降りて部屋を出る。玄関を探してうろうろする前に、天楚市を守る平騎士隊の上着を纏う者達と話す五次にぶつかった。
「陛下は? まだ見つかってないのか?」
「総出で探してますが……」
そして。五次と平騎士達が口にした言葉に、愕然とする。憶都は、おそらく、憶都の乳母に首を絞められて気を失ってしまった開理に戦き、王宮も自分の部屋も安全でないとみてとってしまったのだろう。そして王宮を逃げ出した。しかし、何処へ? 一瞬で、開理の頭は答えを導き出した。……三叉亭!
五次に身体を押さえられる前に、屋敷の外へ出る。しかし、三叉亭に辿り着く前に、天楚市内を流れる運河に見たことのある布の切れ端が引っかかっているのを見、開理は慌てて運河へと飛び込んだ。幾許もなく、流れのない運河から小さな身体を引き上げる。開理の腕の中にある、その冷たい身体は、確かに、開理が仕える天楚王憶都のものだった。
驚愕が高じて、泣くこともできない。開理はただ、運河の端で、物言わぬ亡骸を見詰め、その冷たい身体を抱き締めていた。
『少年王』憶都二世の亡骸は、代々の王が眠る墓所の静かな片隅に葬られた。
そして開理は、全ての者が立ち去った墓所に何時までも佇んでいた。
心にあるのは、自責の念。開理が憶都との約束を違え、憶都の側を離れてしまったから、憶都は王宮を飛び出し、そして亡くなった。もう、約束を違えるようなことはしません。ずっと、傍に居ます。心の裡に隠した誓いの通り、開理は誰の説得にも首を横に振り、憶都の墓所にずっと、夜も昼も、寄り添っていた。
そして、五日の後。
一晩中降り続いた激しい雨の後の朝、息子を説得して連れ戻す為に墓所を訪れた須臾が見たのは、地面に倒れ伏す開理の、息絶えた姿だった。




