断章-4
開理と憶都が十歳になった年に、天楚を二十五年にわたって治めてきた無言王活破七世はその生涯を閉じた。
父の後を継ぎ、憶都二世として王位に就いた憶都は、父に倣って庶民寄りの政治を行った。勿論、憶都一人では天楚を治めることはできない。開理の父である六角公須臾や、叔父である貴族騎士五次、そして活破七世に従ってきた多くの官吏達が、憶都を支えていた。そして、開理自身は。
「開理、外に出よう」
統治の為の会議が長引いた時や紛糾した時、そして何も無い平和な時も、周りに居る人々の隙を見つけては、開理と憶都は王宮を抜け出し、天楚市内を歩いた。開理が武術の修行をしている無限流の道場に向かうこともあったが、禎理が冒険者登録をしていた冒険者宿三叉亭に潜り込み、三叉亭の主人六徳のシチューを食しながら冒険者達の話を聞くことの方が多かった。冒険者から耳にするあちらこちらの話は、王宮で交わされる喧々諤々よりも面白い。そして時折出てくる、禎理が『しでかした』冒険譚が、禎理の冒険譚を聞いて育った憶都のお気に入りだった。
「父や、禎理が守っていた天楚を、ちゃんとそのままにしておきたいんだ」
三叉亭からの帰り道、しばしば憶都はそう、呟いた。そしてその言葉は、開理の思いそのままであった。
楽しい日々が、ずっと続けば、良かったと思う。
しかし運命は、憶都と開理に安楽の日々を許さなかった。




